表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/29

深紅の獅子球

 灼熱の炎が球場に降り注いでいく。

 球が強く握りしめられる。手のひらから溢れ出る汗が球体の中へと入り込んでいく。その球にはもう純白の姿は見えない。ただ、泥臭い色を放っているだけだった。


 体格のいい男がフォームを構える。

 高く上げられた腕が、大きく下へと振り下ろされた。

 熱気で空気が揺れている。その中を放たれたボールが進む。風の抵抗も、その速さを止められない。


 勝利への貪欲な渇望。そのために流した汗水。乗り越えてきた壁。仲間との絆。色々な想いがボールに込められている。そして、好敵手との激しい激突でその球の中に、石油にも似た泥臭(どろくさ)色の液体が溜まっていた。

 四十度を超えるような炎天下。真っ赤な熱波により石油に似たものを燃やす。発火していき、ボール全体から炎を出す。


 ボールを包み込む炎。火炎のそれがミット目掛けて進んでいく。


 小細工など一切無し。純粋な力のみが加わる。シンプルなパワーとスピード。それはまさにライオンのよう。その獣はバッターを威嚇する。

 威圧によって怯んだ一瞬。その一瞬がバットを遅らせる。

 バットが振られるよりも先にキャッチャーのグローブの中に泥臭色のそれが入る。


 純粋で、圧倒的で、恐ろしい、ストレート。

 赤く燃ゆる炎球。この一撃はバッターを空ぶらせる。

 この必殺球、これぞ「深紅の獅子球」である。



 僕には憧れの人がいる。


 その人は勝呂(すぐろ)(まさる)────


 緑谷中学校野球部エース。野球無名校である緑谷中を県で一位の実力にまで持ち上げた。彼の頼もしい背中から溢れ出る真っ直ぐな信念。彼の放つ「深紅の獅子球」は王者の余裕を見せる。その姿に、その強さに一目惚れし、追いかけるようになった。


 そうして数年が経った。

 僕は彼に憧れを持ち、憧れを拗らせた結果、彼のいる高校が志望校となった。受験し、合格して、ついに、憧れの人のいる高校へ。僕は明るく輝いている門をくぐり抜けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ