深紅の獅子球
灼熱の炎が球場に降り注いでいく。
球が強く握りしめられる。手のひらから溢れ出る汗が球体の中へと入り込んでいく。その球にはもう純白の姿は見えない。ただ、泥臭い色を放っているだけだった。
体格のいい男がフォームを構える。
高く上げられた腕が、大きく下へと振り下ろされた。
熱気で空気が揺れている。その中を放たれたボールが進む。風の抵抗も、その速さを止められない。
勝利への貪欲な渇望。そのために流した汗水。乗り越えてきた壁。仲間との絆。色々な想いがボールに込められている。そして、好敵手との激しい激突でその球の中に、石油にも似た泥臭色の液体が溜まっていた。
四十度を超えるような炎天下。真っ赤な熱波により石油に似たものを燃やす。発火していき、ボール全体から炎を出す。
ボールを包み込む炎。火炎のそれがミット目掛けて進んでいく。
小細工など一切無し。純粋な力のみが加わる。シンプルなパワーとスピード。それはまさにライオンのよう。その獣はバッターを威嚇する。
威圧によって怯んだ一瞬。その一瞬がバットを遅らせる。
バットが振られるよりも先にキャッチャーのグローブの中に泥臭色のそれが入る。
純粋で、圧倒的で、恐ろしい、ストレート。
赤く燃ゆる炎球。この一撃はバッターを空ぶらせる。
この必殺球、これぞ「深紅の獅子球」である。
僕には憧れの人がいる。
その人は勝呂勝────
緑谷中学校野球部エース。野球無名校である緑谷中を県で一位の実力にまで持ち上げた。彼の頼もしい背中から溢れ出る真っ直ぐな信念。彼の放つ「深紅の獅子球」は王者の余裕を見せる。その姿に、その強さに一目惚れし、追いかけるようになった。
そうして数年が経った。
僕は彼に憧れを持ち、憧れを拗らせた結果、彼のいる高校が志望校となった。受験し、合格して、ついに、憧れの人のいる高校へ。僕は明るく輝いている門をくぐり抜けた。