「魔物狩りギルドについて」~きまぐれぶらり旅・とある極秘文書~
拙作「異世界きまぐれぶらり旅」第二章をお読みのこと前提の小ネタです。
(B種暗号文で書かれた文書・解析ずみ)
王立安全協会 解読担当官 シュワイゼ・ナッツォ㊞
情報担当大臣 ピール・アイフ㊞
極秘
――――以下解析した文――――
任務継続問題なし。
追加支援はBかCを介することを望む。Aは目を付けられた兆候あり。
この報告はキュレス王国テーバ地方にて新設された「魔物狩りギルド」(以下「ギルド」とする)なる組織についてのものである。
以下その概要と気付いた点を記述する。
1.魔物狩りギルドについて
テーバ地方に多く存在する対魔物を主とする小規模傭兵、通称「魔物狩り」を支援・互助する組織として設立。背後に王家があることは公然の事実である。王家の中でも「王弟」が主導する事業であると確認されている。
(中略)
以上のように、ギルドの目的は多岐に渡ると思われるが、最大の目的はやはり「魔物資源」と「それに関わる利権」の確保と目される。
(中略)
いずれにせよ、「魔物狩り」の支援・互助という名目が完全に表向きのものであり、魔物狩りを「便利なコマ」としか見ていないことは明白である。その点を利用して……
(中略)
4.運営について
数年前から多くのギルド施設が新設され、職員が雇用されている。
後述する利権確保のための出費と合わせ、かなりの規模の初期投資がされたものと推察できる。具体的な予測と数字は資料として添付する。
そのため現時点では極めて赤字経営であり、ギルドに雇われた職員はノルマを与えられ金銭を確保するよう圧力が掛けられているという証言が多数取れた。今後の情報活動の起点として活用できるであろう。
また利権拡大においては既存の団体、特に魔物利権を取り仕切ってきた土着の傭兵集団と強度の摩擦がある模様。この点について既存の傭兵団を「排除すべき」とする派閥と「利用すべき」とする派閥があり、一枚岩ではないことが分かっている。その根拠となる資料は……
(中略)
9.小規模傭兵等について
ギルドの主たる構成員となる小規模傭兵等については既に述べたように「利用されている」状態である。
そのことを把握したうえでギルドを利用している者と、そうでない者がいる。
ただ既存の傭兵団に対する「当て馬」としては未だ確たる勢力はなく、今後の施策が注目される。
また情報源としてはそれなりに機能している模様(資料Cを参照)であるが、情報の売買制度により僅かに死亡率が下がっているのは完全に想定外の産物であったと思われる。(証言資料⑬ギルド幹部についてを参照)
小規模傭兵等については情報活動を行っていない。今後キーマンとなりそうな有力なパーティについては資料Cに記載してある。接触の必要について改めて上申する。
現在、一部パーティに対しては現場の判断で動向観察を行っている。
(中略)
10.今後の展望
ギルドの権限強化と市場の掌握は今後も継続されるであろう。
手を打つならば早く行うべきである。最近は連絡が途切れる者も多数あり、敵性組織の浸透が懸念される。
(以下省略)
(添付資料D)「ギルド情報料についての一考察」
ギルドに入ると、一部の情報が銀貨単位の比較的高価な値段で購入できる。
ギルドが有料で公開する情報には2種類あり、①戦士団や軍から買い取った情報と、②魔物狩りギルドの構成員から買い取った・あるいは売買を仲介した情報である。
比較的高い値段で公開されるのは主に前者(①)の戦士団や軍から買い取ったものである。
その狙いについてはいくつか考えられるが、大きく分けて「赤字の補填」「戦士団・軍の強化」そして「傭兵団の力を削ぐ」という3つが挙げられる。副次的なものとして「小規模傭兵の支援」も含まれていると考えることができる。
(中略)
次に「傭兵団の力を削ぐ」について簡単に解説する。
ギルド登場前にテーバ地方で大きな力を持っていた土着の傭兵団につき、その力の源を挙げるとすれば「金」と「情報の独占」にあったと言える。
戦士団の情報を有料で公開することはそれを突き崩す妙手である。傭兵団は情報を買わねば競合団体に遅れを取り、情報を買うことが当たり前となればギルドの存在感が高まる。
実際、この考察を書いている段階で大きな傭兵団がギルドの軍門に下ったと言う情報が入った。
(中略)
なお、このような傭兵団を想定した高価な情報を利用する個人傭兵も少なくない。
本来は情報の”売り手”として想定された末端構成員であるが、一部の裕福なパーティや、慎重な性格の者は多くの情報を集め安全を確保する傾向にある。戦士団が出す情報は従来の情報屋よりも質・量ともに優れており、この推移も当然の結果なのであろう。
この点は外の領地運営においても何らかの形で応用できるのではないかと思料する。
(以下省略)
魔物狩りギルドが金を取りすぎている!という指摘が多かったので説明するための話を書こうと思ったのですが、面白がって色々やってるうちにこういう形に納まりました。
却って分かりにくくなってしまったかも……
ここはどうなの?といったツッコミがあれば追記するかも。