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目標達成!?

俺はイルマのお蔭で、漸く一心地着く事が出来た。

そしてそこで漸く、肝心な事を聞き忘れていた事に気付いたんだ。

 そうして俺は、イルマの介護……いや、手伝いもあって漸くクウフク様を鎮める事に成功したんだ。


「そう言えばイルマ、何でお前が此処にいるんだ?」


 そこに至って俺は、肝心な事をまだ聞いていなかった事に気付いてそう質問した。

 イルマ達は今、ドルフの村を拠点にしている筈だ。距離としては1日半とそう離れていないとは言え、おいそれとこの「プリメロの街」に戻って来れる訳もない。


「えっ!?」


 キッチンで食器を洗っていたイルマは、突然思い出したかのように質問を投げ掛けられて驚いた声を返してきた。

 そこで俺は、声を掛けたのが彼女の仕事途中であった事を後悔したんだが、律儀な彼女はわざわざ作業の手を止めてこちらの部屋へ戻って来た。

 着けていたエプロンを外して手を拭き、ベッドで横たわる俺の横にちょこんと座ったんだ。

 しかし……。

 一体いつの間に、俺の部屋にはイルマのエプロンが常備されていたんだ?


「こちらには、レベルの申請に来たんです。昨晩着いたばかりですので、クリーク達はまだ宿に居るのか……それとも先にギルドへ行っているかもしれませんね」


「そうか……」


 この構図はまるで、病人を看病するシスターの様じゃないか。

 そう考えるとなんだか急に情けない様な気分になって、俺はそう短く返しただけだった。

 クリーク達がレベルの申請にやって来るのはそう珍しい事じゃない。この地方にギルドはこの街にしか無いし、生き残るためにはまめにレベルを上げておかなければならない。

 レベルが1つ違うだけで攻撃力や防御力、魔力もそうだが、何よりも生存力が変わって来るからな。


「それで? レベルは上がりそうなのか?」


 彼女達はまだ新しいエリアに辿り着いたばっかりなんだ。レベルが1つ2つ上がった程度では、すぐに次のエリアへ行く事なんて出来やしない。

 それでも先ほどの通り、レベルは上がった方が良いに決まっている。


「はい。みんな1つは上がると思います」


 俺の質問に、イルマは満面の笑みでそう答えたんだ。

 自分が強くなっていく事に、喜ばない者なんていない。それが冒険者なら尚更だ。


「でも、当分はドルフの村でしっかりと力を付ける事を心掛けるんだぞ。間違ってもトーへの塔の時のように無茶なんかしない様に。特にクリークには確り言っておけよ」


「はい! ……でも」


 俺の言葉に、イルマは小さく笑いを零してそう答えた後、僅かに表情を曇らせていた。


「んん? なんだ、イルマ? 何か問題でもあるのか?」


 何事か言い淀んだイルマに、俺は先を進める様にそう促した。

 それを受けたからなのか、イルマが僅かに思いつめた様子で口を開いたんだ。


「それが先生……。クリークが……先生に聞いていただきたい事があると……。この間仰っていた『シュロス城』攻略についてなんですが……」


 成程、イルマが言い淀むのも分かる話だ。

 クリークはまた、早く「シュロス城」を攻略して先に進みたいなんて馬鹿な事を言い出したんだろう。

 ただし今回は、そうは簡単にいかない筈だ。何故なら……。


「それは前にも言ったけどな。『巨蛇の牙』を10本集めるまでその話は無しだ。クリークにもそう言ったんだろう?」


 キリング・スネークを倒すと稀に「巨蛇の牙」を手に入れる事が出来る。

 それを10本……これは中々に骨の折れる作業の筈だ。

 実はこの牙、道具屋で買う事も出来る。不正をしようと思えば出来ない事は無いんだ。

 でもそんな事は、実際に戦う所を見ればすぐに分かる話だ。

 前回トーへの塔で失態を犯していると言う事もある。クリークがまさか、そんな不正を行うとは考えられないんだけどな。


「はい……それで……」


 そこまでイルマが口を開いて、ドアをノックする音が聞こえた。

 随分と乱暴な叩き方に、ドアの外から「先生」を連呼する声が聞こえたんだ。

 俺の部屋にそんな荒っぽい声の掛け方をする……いや出来る不作法者なんて、早々心当たりがない。


「……イルマ。俺の代わりに出てくれないか?」


 俺は盛大に溜息をついて彼女にそう頼み、イルマは笑みを浮かべて了承して玄関の方へと歩いて行った。

 程なくしてどやどやと入って来たのは、言うまでもなくクリーク、ソルシエ、そしてダレンだった。


「先生! ベッドで寝た切りって、もうそんな年なんですか?」


 入って来るなり挨拶も無く、いきなり冗談なのかどうか分からない言葉を口にしたのは、言うまでもなくクリークである。


「あんた、バカでしょ? いくら先生がオジサンだからって、まだ寝たきりになる程の年じゃ無いわよ」


 そしてそんなクリークに辛辣なツッコミを入れているのは、やはり挨拶すらしないソルシエだ。


「あの……先生。お疲れでお休みの処を失礼します」


 そして礼儀正しく挨拶してくれたのはダレンだった。

 イルマとダレン……この二人が、俺の心の清涼水だな。

 そしてクリークとソルシエは、頭痛の種以外の何物でもない。


「ああ、構わない。今は身体が動かせないから、寝たままで許してくれ」


 そして俺は、そう一同に声を掛けた。

 ギャアギャアと言い争い出したクリークとソルシエだが、俺の言葉で口喧嘩もやめてこちらの方へと向き直っている。


「イルマから話は少し聞いている。クリーク、また無茶を言って皆を困らせているんじゃないだろうな?」


 こちらを見つめる生徒たちを見回して、最後にクリークへと視線を固定させて言葉を切った。

 俺に見つめられたクリークは、神妙な顔に緊張を宿して固まってしまっていた。まぁそれも仕方が無いかも知れない。

 何と言っても今の俺は、満身創痍状態ですこぶる体調が悪い。

 そんな俺の視線が……いや。目つきが良い筈はない。

 彼にしてみれば、俺に睨まれたような気分だろうな。


「そ……そんな事無いぜっ! 俺達はちゃんと先生の言いつけを守ってるし……」


 必死で言い訳……じゃなくて反論していたクリークが、そこまで言って何やらゴソゴソと道具袋を(まさぐ)り出した。そして引っ張り出した手には、何かが握られていた。


「ちゃんと『巨蛇の牙』を10個集めて来たんだっ! これで約束達成だよなっ!?」


 そして俺の目の前で広げられたクリークの掌には、10個の白い牙が乗っていたんだ。

 体が動かせないからマジマジと見る事は出来ないが、それは「巨蛇の牙」で間違いない様だった。


「へぇ……驚いた。お前達、いつの間にそんなに力を付けていたんだ?」


 正直、心底驚いたのは本当だった。

 クリーク達のレベルでは、これだけの巨蛇の牙を集めるには相当の時間が掛かる。

 俺の予想では「霧の沼地」で2ヶ月。そして「シュロス城」で2ヶ月は掛かると考えていたんだ。

 それをこんなに早く達成するなんて、俺は彼等の才能を読み違えていたのか?


「へっへ―――んっ! これで俺達、『シュロス城』に行っても良いよな?」


 自信満々なクリークが、目を輝かせてそう告げて来た。

 その背後では、ソルシエもワクワクと期待した表情を浮かべている。

 ただしイルマとダレンは、どこか落ち着きなく困惑している様だった。

 ……ふむ。


「そうだな……約束だからな。でもその前に、お前達の戦いぶりを見せてくれないか?」


 別にクリーク達が、本当に不正をしていると思った訳じゃない。

 でも、どうにもダレンとイルマの仕草が気になった。

 この場で反論しない処から、恐らくは問題ないとは思うんだがな……。


「なんだよ、先生? 俺達を疑ってるのか?」


 不平を顔にありありと浮かべて、クリークがそう反論して来たんだが。


「いいじゃない、クリーク。この際、私達の成長した姿も見て貰えばさ」


 そんなクリークに応えたのは、彼の後ろにいたソルシエだった。

 だがもしも本当に成長したんなら、やっぱり一度見ておいた方が良いのも確かだ。


「まあな―――……んじゃあ、先生。何時にする?」


 やけにあっさりと引き下がったクリークが、何時キリング・スネークとの戦いを見に来るのかと問いかけてきた。

 と言っても、今の俺はこんな状況だ。今すぐにドルフ村へ向かうと言う訳にはいかない。


「そうだな……3日後でどうだ?」


 それくらい経てば、流石に動けるくらいにはなってるだろう。

 俺はそう約束して、先にドルフ村へ帰る様にクリーク達を促した。

 イルマは最後まで此処に残る事を主張していたが、パーティの回復役がいない事にはいざという時に最悪の事態となる可能性もある。

 俺は彼女を言い包めて、何とか全員ドルフ村へと向かわせたんだ。


クリーク達がこんな短時間で目的を達成するなんて……予想外も良い処だ。

でもそれも、戦いぶりを実際に見てみれば住む話だからな。

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