家政婦長とナディア
30話、義弟と従姉辺りの話です。
「ナディア、少しいいかしら?」
家政婦長に呼ばれ、ナディアは家政婦長の部屋へと向かった。そこで向かい合って腰掛け、明日サマンサが少し出かけたいと言い出す事、その時ナディアを指名するから護衛として付いていく事を家政婦長は指示した。
「その時、サマンサ様の様子を観察してもらえるかしら?」
「観察、ですか?」
「えぇ。エイメン殿下の前でのサマンサ様の様子を、出来るだけ細かく覚えておいて」
ナディアは家政婦長の要望がわからず、困った表情を浮かべた。家政婦長は微笑む。
「多分セリム殿下は気にされていると思うの」
「それならば行かせなければいいと思うのですけれど」
「サマンサ様が行きたいと思っていそうだったから止められなかったそうよ。本当にあの方の優しさはどこかおかしいのよね」
家政婦長は微笑んだ。家政婦長はセリムからナディアをサマンサの護衛として同行を依頼され、サマンサからはセリムに内緒で出かけるふりをするから上手く口裏を合わせて欲しいと別々でお願いされていた。
「サマンサ様は何故エイメン殿下に会いに行かれるのですか?」
「エイメン殿下がセリム殿下に対して何か思う所があるのかを確認したいそうよ」
「つまり、エイメン殿下に好意を持っているわけではなく、セリム殿下を脅かすかどうかを見極めに行かれるという事でしょうか」
「そういう所でしょう。でも実際の所、サマンサ様の気持ちが私にはわからなくて」
ナディアは意外そうな表情を浮かべた。家政婦長はとても面倒見が良く、他の使用人達への気配りも欠かさない。それは家政婦長の観察眼が優れているからだと彼女は思っていた。家政婦長は残念そうな表情を浮かべる。
「サマンサ様は大国の王女。簡単に本心を見せてくれないわ。セリム殿下の事を悪く思ってはいないけれど、それ以上の感情は読み取れないの」
「わかりました。注意深く対応します」
「えぇ、宜しく」
エイメンの館から帰ってきて、サマンサはナディアにお礼を言うと自室へと向かった。その後セリムが帰ってきて、二人は一緒に庭へと出かけた。
庭から戻り、サマンサが再び自室へ行くと、それを見計らったようにゼフラが訪ねてきた。セリムが在宅中の場合は追い返さない事になっているので、使用人は仕方がなくゼフラを通した。
ゼフラが帰った後、セリムはナディアの所に訪ねて来ていた。
「今日のサマンサとエイメンはどんな様子だった?」
「楽しそうに食事をされていました」
ナディアは嘘を吐こうか迷ったが、見たままを言った方がいいと思ってそう告げた。サマンサは終始笑顔だったので楽しそうに見えたのだ。
「そう。どういう話をしていたのか教えて貰えるかな」
落胆した表情のセリムに嘘を吐くべきだったかと思いながら、ナディアは本の感想を言いあったりしていたと伝えた。彼女は文字が読めないので本を読んだ事がなく、正直な所どういう話なのか聞いていてよくわからなかったのだ。
ただ、彼女は二人の動きが見える場所に控えていたので、二人の様子はずっと見つめていた。
「終始サマンサ様はエイメン殿下の話に答えているだけで、自ら質問をされたのは一度だけでした」
「その内容は?」
「王位継承権を放棄する気はあるのかと」
ナディアの答えに、セリムはほっとしたような表情を浮かべた。彼女は何故彼がほっとしたのかはわからなかったが、とりあえず嘘を吐かなかった事を悩まずにすんでよかったと安心をした。
この後、セリムの様子がおかしくなり、ナディアはやはり失敗だったかと悩む事となる。しかしそれはナディアには一切責任がないのだが……




