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この結婚は運命か否か  作者: 樫本 紗樹
おまけ (Web拍手SS再録)

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ハサンとポーラ

22話、刺繍の前辺りの話です。

 ポーラはサマンサに指示されたように、使用人達にオルハンとゼフラの関係、また王太子妃とはどうあるべきかを聞いて回っていた。


「王太子妃? ゼフラ様を基準にするなら自己中心的な女性だろうか」

「オルハン殿下はとても素晴らしい方で私達の事まで気を遣ってくれたけれど、ゼフラ様は……ねぇ」


 ポーラはゼフラの情報を集め続けるにつれ、ゼフラが褒められた女性でない気がしてきた。それなら何故王太子妃ではなくなった彼女をここに迎え入れていたのだろうかと、疑問を抱き尋ねてみる。


「大臣の娘には逆らえないんだよ。職を失うのは怖い」

「セリム殿下は頼りないから、私達の事を守ってくれるかわからないし」


 オルハンとゼフラの話を聞いていたはずなのに、セリムの頼りないと言う情報をポーラは掴んでしまった。ポーラはそれを手帳に記そうとしてやめた。これは主に報告するべき情報ではないと判断をしたのだ。

 ポーラは色々と書き込んだ手帳をポケットにしまうと、ハサンの元へ向かう事にした。



「王太子妃について、ですか?」

「はい。サマンサ様はどう振る舞うべきか悩んでおられる御様子ですので、前例を教えて頂きたいのです」

「そう言われましても、私はオルハン殿下に仕えていた者。ゼフラ様以外は存じ上げないのです」

「それではゼフラ様がどのように過ごされていたのか教えて頂いても宜しいでしょうか」

 ハサンはポーラに頷くと、ゼフラについて話し始めた。

 ゼフラは王太子妃として公務をしていなかった事。そもそもアスラン王国に王太子妃の公務がないので、これは仕方がない事。暇を持て余したゼフラは買い物が好きで、湯水のように金を使っていた事。そしてそれに苦言を呈したハサンとよく揉めていた事。しまいには商人を出入り禁止にして、強引に買い物を止めた事。

 ポーラは一通り聞いたものの、サマンサが求める答えではない事に落胆をした。

「サマンサ様はレヴィ王宮でどのように過ごされていらっしゃったのですか?」

「貴婦人方とのお茶会や晩餐会などで交流されたり、商人を呼んでお買い物もされていました」

 商人と聞いてハサンが一瞬顔を歪めた。

「買物がお好きなのですか?」

「サマンサ様は厳選して欲しい物だけを購入されます。そしてそれを大切に身に着ける方です。残念ながら購入された物はレヴィに全て置いてきてしまいましたので、その素晴らしい感性をお伝えできないのですが」

「置いてこられたのですか?」

「はい。妬みの対象になると困るのでと、義姉上様に全て譲られてしまったのです。持ってきた物は贈り物として頂いた物だけです」

「ですが、セリム殿下が送った指輪はされていませんよね」

「あれは婚約指輪ですよね? 結婚をしたのですから結婚指輪をするべきであり、婚約指輪は用無しだと思うのですけれども」

 ポーラの言葉を聞いてハサンは納得したように頷いた。

「そういう事ですか。これも文化の違いですね。決して気に入らないから、していなかったわけではないのですね」

「違います。レヴィ王国ではずっと指輪をされていました。今も大切に箱に保管されています」

「そうでしたか。てっきりサマンサ様の趣味に合わなかったのかと思っていました」

「いえ。サマンサ様ははっきり物を言われる方ですが、指輪が気に入らないとは聞いた事がありません」

 ポーラはそう言いながら気に入っているとも聞いた事がないと思った。だがこれは言うべきではないと呑みこむ。

「必要でしたら商人を呼べるように手配致します」

「サマンサ様は衣裳部屋に用意して頂いた物で十分という雰囲気でしたから、暫くは問題ないと思います。ですがその時は宜しくお願い致します」

 ポーラは一礼をして辞そうとしたが、ハサンは彼女に声を掛けた。

「サマンサ様はセリム殿下の事をどう思っていらっしゃいますか?」

「どう、とはどういう意味でしょうか?」

「夫婦として一緒に暮らしていけそうでしょうか」

「サマンサ様は自分の役割を放棄される方ではありません。レヴィ王女として立派に振る舞われますよ」

 ハサンは少し不満そうな顔をした。彼が聞きたかったのはそういう事ではない。サマンサの心情を知りたかったのだ。

 しかしポーラもサマンサの心の奥まではわからないので、それ以上の事を彼に言う事は出来なかった。

「セリム殿下は頼りない部分もあるかと思いますが、とてもいい人です。長い目で見て頂ければと思います」

「わかりました。そのように伝えます」

「エイメン殿下と一度お会いになられたと伺っています。何か仰られていましたか?」

 ハサンの質問にポーラは一瞬言葉に詰まった。初恋の人に似ていると興奮気味に話していたという事は言ってはいけないと判断し、他に何を言っていたかを思い出す。

「セリム殿下とは似ていなかったと仰っておられました」

「異母兄弟ですからそうですね。それだけですか?」

「セリム殿下と仲良くないらしいから多分もう会わないだろうと冷めた感じでしたけれど、それが何か?」

「いえ。それならいいのです。セリム殿下はどこへでも出かけるのに対し、エイメン殿下は自ら足を運ぶのは図書館だけです。そのように顔のつくりも性格も違うので、どのように映ったのか少し気になっておりまして」

 ポーラは返答に困ってしまった。カイルに似ているエイメンの事を、サマンサがどう捉えたのか彼女にはわからない。ただ、サマンサは要らぬ詮索はされたくないと言っていたのだから、余計な事を言わない方がいいだろうとは思った。

「それはセリム殿下とサマンサ様の問題であり、私達が気にする事ではないと思いますけれども」

「そうですね。失礼致しました」

「今日は色々とありがとうございました」

 ポーラは一礼するとハサンの部屋から辞した。

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