二人の出会い (セリム視点)
これのみセリム一人称になります。
俺は気が乗らなかった。
国の為になる結婚と言われ、頭で理解しても心が納得しなかった。
話を持ってきたテオは確かに信用出来る。兄に納めていた薬も効果があったようだし。
だが相手は大国の王女。俺と釣り合うとは思えない。
だから結婚前に顔合わせをしたいという無茶ぶりをした。そうすれば諦めるだろう。
そう思ったのだが、何故か意見が通ってしまい、わざわざ出向く羽目になってしまった。
ケィティはとても栄えた貿易都市だ。
刻一刻と迫る顔合わせの時間が嫌で、気分転換に都市内を散策していた。
その時、急に風が吹いたと思ったら帽子が飛んできた。
わが国では帽子を被る習慣はないが、ケィティの商人達はよく被っているので知っている。
こういう物なのかと、まじまじと観察していると女性の声が聞こえた。
何を言っているのかわからなかったが、そこにいた女性を見て俺の中で衝撃が走った。
女神だ。きっと彼女は俺の女神に違いない!
「私はアスラン王国のセリムと申します。もし宜しければ少しお話をしませんか?」
彼女も俺が何を言っているのはわからない様子だ。
困った様子で手を差し出したので、俺は彼女が承諾したものだと思いその手を取った。
そして宿屋へと戻ろうとした時、急激に腕に痛みが走った。
振り返ると長身の妙な男が俺の手から彼女を離し、自分の後ろに隠したではないか。
「お前は誰だ? 私にこのような無礼をしていいと思っているのか」
男も俺の言う事がわからないらしい。だが睨んでいる。上から睨みつけてくる。
無礼すぎるな、この男! 俺の運命の出会いを壊す気か!
俺が長身の男に文句を更に言おうとした時、奥からハサンが出てきて何やら他国語で話し始めた。
「殿下、それは彼女の帽子です。返してあげてくれませんか」
「だが彼女は私の運命の女性で……」
「殿下の話は後で伺いますから、盗人扱いされたくなければ返して下さい」
盗人扱いは困る。流石にこんな事で国の名前に泥を塗るわけにはいかない。
俺は渋々帽子をハサンに渡すと、ハサンは彼女に帽子を返してしまった。
ここで彼女と別れるわけにはいかない。せめて名前だけでも聞かなければ。
「貴女は運命の人です、是非お名前だけでも教えて下さい」
「殿下、くだらない事を言っていないで帰りますよ。もう時間が迫っていますから」
「待ってくれ。彼女の名前を聞いてくれ。彼女と結婚したい」
「何を仰っているのですか。殿下は政略結婚をするのです。ほら行きますよ」
ハサンは俺の話を聞く事なく強引にその場から連れ去っていく。
俺は名残惜しそうに彼女を見ていたが、彼女は特にこちらを気にする様子もなく、逆方向へと歩いていく。
「何故だ! 何故彼女を誘ってはいけないのだ!」
「政略結婚をするからです」
「嫌だ、それは白紙に戻せ! 私は先程の女性と結婚する」
「運命などありません。殿下は王太子なのですから政略結婚は義務です」
腕を振り払おうとしたが、ハサンの力が強くて俺は逃げ出せなかった。
嫌だ、結婚相手くらい自分で選ぶ。
先程まではただ漠然と嫌だと思っていたが、今は違う。彼女としか結婚をしたくない。
「そんな義務は王位継承権とともに捨ててやる。だから離せ!」
「はいはい、くだらない事を言っていないで顔合わせに向かいますよ」
俺は思い切りハサンの横腹を殴り、腕の力が緩んだ隙をついて逃げだすように走り出した。
力はハサンの方が上だが、足なら俺の方が早い。
ハサンの声が後ろから聞こえるが無視をし、彼女を探して都市内を走り回った。
その後、俺は彼女を見つけられないままハサンに捕まってしまった。
彼女は一体、どこの誰だったのだろう?
その女性が実は政略結婚の相手だと、この時は全く思ってもいなかった。




