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この結婚は運命か否か  作者: 樫本 紗樹
本編

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38/58

見えてきた関係

「昨夜はごめんなさい」

 サマンサは部屋に入ってきたセリムに頭を下げた。彼女は昨夜、果実酒の入ったグラスを半分ほど飲んだ辺りから記憶がない。朝目が覚めて、何故自分は寝衣にも着替えずに寝ていたのか全くわからなかった。そしてポーラから経緯を聞いて反省をしていた。

「昨夜の事は覚えていないの?」

「えぇ。セリムさんが運んでくれたとは聞いたけれど覚えていないの。本当にごめんなさい」

 サマンサは申し訳なさそうな表情を浮かべた。それを見てセリムも少し残念そうな表情を浮かべる。

「とても楽しそうにしていたのに覚えていないのか」

「上の兄に人前では絶対に飲んではいけないと言われていたから、何か失礼な事をしてしまうのだと思っていたのだけれど、楽しそうだったの?」

 サマンサは社交場へ出る前に酒がどれ程飲めるか確認した方がいいとエドワードに言われ、三年前に初めて葡萄酒を口にした。そしてその時、エドワードから酒に弱すぎて人に迷惑をかけるから絶対に人前で飲むなと言われ、ずっと守っていた。ポーラが彼女の酒癖を知っていたのは、人前でなければ飲んでもいいのだろうと、寝室に酒を運ばせた事があるからである。ちなみにその時はポーラが絡まれ、二度と彼女の部屋に酒が運ばれる事はなかった。

「あぁ。もう一度見たいと思う程楽しそうだったよ」

 笑顔のセリムに控えていたポーラが申し訳なさそうな表情を浮かべて声を掛けた。

「あの、一言宜しいでしょうか」

「何?」

「あの態度は近くにいる者なら誰でも構わないのです。私も被害に遭っています。ですから気軽にお酒を勧める事はやめて頂けないでしょうか」

 サマンサは不機嫌そうな表情をポーラに向けた。被害と言われるような何かをした記憶がない。一方セリムは訝しげな表情をした。

「誰でも?」

「えぇ。もし近くにいたのがハサン様や家政婦長でもそうなります。男女の境もありません」

「私は一体何をしたのよ」

 サマンサは自分の行動が気になって仕方がなかった。二度と人前で飲むなとは言われたが、何故飲んではいけないのかは教えて貰っていないのだ。

「記憶をなくされるのがいけないのです。もう二度と飲まないで下さい」

 ポーラはこれ以上追及しても口を開かないと思い、サマンサはセリムの方を見た。

「エイメンの事をカイルと呼んでいた。カイルとは誰なのか教えて欲しい」

 セリムの言葉にサマンサの表情が一瞬強張る。それを彼は見逃さない。

「随分と親しげな感じだったけれど、カイルとはそういう仲の人?」

「そういうとはどういう意味かしら」

「恋人、かな」

 サマンサは視線を伏せた。記憶がないので何をどう口走ったのかが彼女にはわからない。エイメンをカイルと間違え、セリムが恋人と判断出来るような態度を取ってしまったのかと思うと、少し心が痛んだ。

「カイルは兄の側近よ。エイメン殿下と顔立ちと髪色が似ているの。でも誤解しないで。カイルは私の事を相手にしてくれなかった。この結婚話が出る前に終わった私の初恋の相手というだけ」

「それでエイメンと初めて会った時、一瞬態度がおかしかったのか」

「えぇ。顔があまりにも似ていて一瞬勘違いしそうになったの。でも話してみれば別人だとわかったし、今はどちらにも興味ないわ」

 サマンサはセリムを見つめながら微笑んだ。本当に彼女の中ではカイルの事は終わっている。今はそれよりも気になる事がある。

「それで、エイメン殿下の事をカイルと勘違いをして、私は取り返しのつかない事をしてしまったのかしら」

「いや、名前を呼び間違えただけで、それ以外は大丈夫」

「では楽しそうというのはどういう意味?」

 サマンサが問いかけ終わるのと同時にノックする音がした。それは廊下に繋がっている扉からではなく、セリムの部屋に続く扉からであった。

「セリム殿下、予定を変えられますか?」

「悪い。すぐ行く」

 セリムは扉の奥にいるハサンにそう言うとサマンサの方を向いた。

「サマンサ、ハサンが色々と調べてくれたのを、俺の部屋で一緒に聞いて欲しいのだけどいいかな」

「えぇ、喜んで」

 サマンサはソファーから立ち上がった。昨夜エイメンやゼフラから情報を聞き出す前に記憶を失ってしまった事を気にしていた彼女は、情報があるのなら聞きたかった。

 ポーラが扉を開けると、セリムの部屋の中にはハサンとメルトがいた。セリムとサマンサが移動するとポーラは一礼をして扉を閉めようとした。それをサマンサは手で制す。

「ポーラも立ち合って」

「いえ、私はセリム殿下のお部屋に入るわけには参りませんので」

「あとで聞きに来られると二度手間ですからどうぞ」

 ハサンに淡々とそう言われ、ポーラはセリムの顔を伺う。王太子の部屋に入る許可を側近が出すのはおかしいのだが、セリムはハサンのこの態度にもう慣れてしまっているので特に不満そうでもない。ポーラは一礼するとセリムの部屋に入ってから扉を閉めた。

 部屋の中央にある机には椅子が四脚置いてあり、セリムとハサンは慣れた様子で向かい合って腰掛けた。メルトは廊下に繋がる扉の前に立っている。サマンサが迷っているとセリムが自分の横の椅子を引いてくれたので、彼女はそこに腰掛けた。ポーラは入ってきた扉の前で控えている。

「先日ジョージ閣下より報告書を頂きました。それを元に色々と調べました所、タラール内務大臣の横領が見つかりました」

「横領?」

「えぇ。橋の修復工事費用を着服していたのです。多分探せば他にも見つかるだろうと引き続き調査中です」

「何故兄がそのような事を」

 サマンサは眉根を寄せた。先日ジョージが訪ねてきた時には、そのような事を一切言っていなかった。

「工事の進捗状況を確認するだけで色々な部分が見えたのでしょう。セリム殿下は人が好いので任せた人を信じてしまうのですよ。信じる人は選ばないといけません」

 ハサンに指摘されセリムは視線を逸らす。

「レヴィが乗っ取るという噂もタラール内務大臣辺りから流されたもののようです。もう少し調べれば足が付くと思います。それと、この調査の際に別の事もわかりました」

「別の事?」

 セリムはハサンに視線を戻した。

「えぇ。どうやらミライはエイメン殿下と繋がっていそうなのです」

「エイメンと? ゼフラの侍女とエイメンでは接点がない気がするが」

「えぇ。ですからこちらも現在調査中です。ただ、その可能性がある以上、夕食時は気を付けて話す必要があります。ミライは給仕の手伝いをしていますから、その時に聞き耳を立てていると思う方が自然です」

「でも夕飯の時はたいした事を話していない気もするわ」

 サマンサは笑った。会議の内容は寝る前に彼女の部屋で話している。夕食の時は基本的に雑談だ。

「ですが先日、サマンサ様はエイメン殿下の事を貶していましたよね」

「そう言えばあの時はミライがいたわね。でも別にもうエイメン殿下に好意的に振る舞う気もないから、気にしなくてもいいと思うけれど」

「ですがエイメン殿下の自尊心が傷付いたかもしれません。あの方はセリム殿下より自分の方が上だと思っている節がありますから」

 サマンサは面倒臭いと思ったが言葉にはしなかった。気のある素振りをしたのは自分であるし、セリムに迷惑にならないようにするべきだろう。だが政略結婚であるし、彼女は明確にエイメンに対して行動をしたわけではないので、エイメンの自尊心を傷付けたと言われても腑に落ちなかった。

「私は国家間の話し合いの上で嫁いできたのだから、エイメン殿下の自尊心まで気にしていられないわ」

「レヴィは離婚が容易くないと聞いていますが、アスランではそうでもありません。離婚や再婚は珍しくありません。セリム殿下が廃太子され、エイメン殿下が王太子になりサマンサ様が王太子妃になる、という事はこちらの法律的上問題はありません」

 淡々と話すハサンにサマンサは嫌そうな表情を浮かべる。

「そちらに問題がなくても私にしてみれば問題よ」

「ですからエイメン殿下はサマンサ様と個別で会われたのだと思いますよ。サマンサ様の同意を得られれば、セリム殿下が引く所まで計算済でしょう」

 ハサンは冷めた視線をセリムに送った。セリムは嫌そうな顔をする。

「もう引かないと決めた。サマンサは渡さない」

「サマンサ様はいかがですか」

 サマンサはハサンに真剣な表情で見つめられて困った。セリムかエイメンかという問題ならセリムと即答出来る。しかしセリムを夫として受け入れたのかと言われると難しい。彼女はまだ運命が何かはわかっていないし、セリムの事をどう思っているのかと言われても、丁度いい言葉が思いつかない。

「エイメン殿下に嫁ぐのは嫌」

 サマンサは嫌な事だけを伝えた。ハサンはそれに対し無表情で頷く。

「昨夜の事もありますし、これでエイメン殿下が引き下がってくれるといいのですけれど」

「昨夜私が名前を間違えた事に対して機嫌を損ねたかしら。覚えていないのだけれど謝った方がいい?」

 ハサンは意外そうな表情でサマンサを見つめた。彼女はとぼけている雰囲気がないので本当に覚えていないのだろうと判断し、セリムに憐憫の表情を向けた。セリムはそんなハサンを睨む。

「それなら夕食の時にでも話しましょうか。ミライと繋がっているのでしたら、そこから勝手に話が流れるでしょうし」

「それはいいかもしれないわね」

 どこからどのように話が漏れているかを確認するのは、サマンサもレヴィ王宮にいる時にやっていた手口である。彼女はミライとエイメンが繋がっていた場合のお互いの利点を考える事にした。

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