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ポルターガイストの陰に少女あり


「なぜ僕が、ポルターガイストに興味があると思うんです?」


 いつもの不機嫌そうな顔でダニーが尋ねると、ホームズ氏はしれっと述べた。


「君は元々霊媒だろう? ポルターガイストとは、元々は騒がしい霊という意味で、僕の専門外だしね。事実、霊が原因ならだが」

「僕だって、前世はともかく、今は霊媒方面が得意ってわけじゃないんですが」


 前世のダニーは、「僕の力は霊によるものだ」と公言していたそうなのに、この発言である。

 まあ、今生ではもう、サイキックとして覚醒しているのかもしれないが。


「でも、ダニー君は自分と似た力を持つ者に興味があるはずでは?」


 ホームズ氏は落ち着いて指摘した。


「もちろん、そこの零君も君とほぼ同じことが可能だろうけど、彼と君じゃ、根本が違うからね」

「……僕が同じ力を持つ仲間を求めていると?」


 ダニーが低い声でなおも問う。


「そうじゃないとしたら、僕の見立て違いだ。すまなかったね。ポルターガイスト事件なんて、この日本ではあまり起きないので、その陰にサイキックがいると思ったんだが」


 ホームズは肩をすくめ、新聞を薄い鞄に仕舞おうとする。

 途中でダニーが声を上げた。


「わかった、わかりましたよ! 確かに僕は孤高だし、同じ力を持つ者がいるとすれば、興味はある。記事を見せてください」


 ――これだから、ホームズさんは苦手だっ。

 などと最後に付け加えたが、おそらく小声すぎて、聴力に優れた僕しか聞こえなかったはずだ。

 ダニーは実に嫌そうに立ち上がり、ホームズ氏のそばへ寄って、新聞記事を見せてもらっていた。

 ホームズ氏が教えるくらいだから、多分、近所の話なんだろう。




「わからないんだけど?」


 ひそひそ声で先生が囁く。


「ポルターガイストは霊の仕業でしょう? なら、どちらかといえばサイキック能力の仲間を求めていそうなダニー君には、あんまり関係ないんじゃない? それなのに、なぜホームズさんは、サイキックがいる可能性をほのめかしたの?」


 なかなかいい質問である。


「そもそも、ポルターガイスト事件の多くは、実は霊の仕業じゃないんですよ」


 僕もあえて小声で教えてあげた。


「その多くは詳細に調べれば説明がついてしまうもので、勘違いが多い。配管が鳴ってるとか、隙間風で扉のガタつきとかね。ただし、説明のつかない例もごく少数ながら存在します。ただその場合も、本物の霊が絡んでいる場合はむしろ少なく、確率的に一番多いのが、事件が起こった家に、少女がいる場合です」


「え、どういう意味かしら?」

「これは単なる統計上の話ですが」


 僕は先に釘を刺した。

 特に詳しいわけじゃないので、質問攻めにされても困る。


「サイキックが最も発現しやすいのが、実はティーンの少年少女で、さらに割合で言うなら、少女の方に能力者が多い。彼女達が過度のストレスに苛まれたり、あるいは憎悪やなんらかの理由で精神が不安定になったりすると……力が暴走して、まさに典型的なポルターガイスト現象が起きるとされています」

「つまり、その事件現場となった家? には、サイコキネシスの力を持つ少女がいる?」


 サイコキネシス(念動力)なんて用語がすっと出てくるのは、そっち方面が好きだからだろう。

 好奇心に充ち満ちた先生に、僕は両手を広げた。


「全ては統計上の話で、確率的に多いってだけですけどね。本当に悪霊が暴れ回っている可能性だって、そりゃあります」

「えええっ」


 今になって先生が自分の身体を抱き締めた。

 しかし、瞳は好奇心で輝いている。まあ、女性はホラー関係も好きな人が多いからな。


 ……僕は存在自体がホラーだけど。


 ただ、この騒ぎで今の話がチャラになるなら、それもいいか――と思ったのだが、そう甘くはなく、先生はすぐに真顔になった。


「それはそれとして……零君、お返事は?」




「――マスター!」


 ふいにダニーが僕らのテーブルに来た。

 ホームズ氏から譲り受けたらしい新聞を軽く振り、僕に頼む。


「本当に近所なんで、これから冷やかしにいきます。で、マスターもどうです、一緒に?」

「え、僕かい?」


 まさか誘われるとは思わなかった。

 ホームズ氏の方を見ると、彼は軽く手を振ってみせた。


「僕は店番をしているよ。皆で行くといい」

「……まあ、たまには外へ出るかな」


 店番が確保できたので、僕も立ち上がる。タイミング的にも、非常によろしい。

 ところが、先生がぐっと腕を掴んだ。


『お返事はっ!?』


 み、耳元で囁かんでも。


「あー、戻ってからということで」

「じゃあ、わたしも行きますっ」


 先生まで立ち上がった。


「今晩中に、是が非でもお返事もらいたいものっ」

「えーーっ、別に先生はいいですよ」


 ダニーが抗議の声を上げたが、今度は先生の方が歯牙にもかけず、無視した。

 女性を怒らせるものではないという、典型例である。



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