表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/27

零君がわたしをどう思っているか聞きたいし、お付き合いもしたいわ!


「わたし、不破歩夢ふわ あゆむです。神代君の高校の担任教師。よろしくね」


 先生は挨拶したが、中坊のダニーは小さく片手を上げたのみだった。


「お気になさらず。ここの常連は、だいたいみんな人見知り激しいので」

「僕は普通の人に興味ないだけですよ、マスター」


 ……人が穏便に収めようとしているのに、またこの中坊は。


「この世界は普通の人間のものだよ。僕らはあくまで異端だぜ? そんな、古いアニメのヒロインみたいなこと言わなくても」

「異端、大いに結構! 僕は元々、前世から異端ですしね。今更馴れ合う気はないですよ……マスターとか、少数の例外を別として」


 反骨の中坊ダニーは、コーヒーのカップを片手で掲げてみせた。

 そして、そのままそっぽを向く。

 やむを得ず、僕は先生に肩をすくめて見せる。ま、元から相性悪そうだしな。


「い、いいの……気にしてないから……ぐすっ」


 むちゃくちゃ落ち込んだ顔で呟き、先生は席に着いた。





 カウンターの……男性二人が陣取る両端を避け、真ん中に座った不破歩夢先生は、『ねえねえ』と僕を呼んだ。


「なんです? コーヒーなら、もう少しお待ちを」

「いや、督促じゃなくて」


 なんだかじれったそうな顔で僕の顔を見る。


「あの……少しお話しがあるんだけど」

「はあ? 気にせずに、そのままどうぞ。聞いてますよ」

「いや、そうじゃなくてっ」


 先生の声のオクターブが上がったところで、またホームズ氏が声を上げた。


「零君、多分先生は、皆から離れた窓際の席などで、二人だけでひっそり話したいんじゃないかな? おそらく私にはその内容もわかるが――うん、わかってる、ワトソン」


 途中でホームズ氏が自分の隣を見た。


「僕だって、前世と違って自制くらいするさ。もちろん、余計なことは言わないよ」


 そのまま、口元だけに笑みを刻み、新聞の陰から僕らを見た。


「つまり、内緒話に応じてあげなさい、という話さ」

「あ……それも推理ですか」

「こんなのは、推理に入らないね。しかし、先生に訊くといい。外れてないはずだよ」


 僕が先生を見ると、赤い顔でコクコク頷いた。


「まあ、客も二人しかいないし、構わないですけど」


 白いワイシャツと黒ズボンの代理マスターの正装のまま、僕は淹れ立てのブルーマウンテンを二つ持って、窓際の席へ移動する。


 ダニーがなにやら顔をしかめて窺っていたが、何も言わないので、僕も無視しておく。


 先生がそっと僕の正面に座り、僕らは相対した。

 外はまたしても景色が変化し、どうやら水の都ヴェネチアになっていた……こちらと違って黄昏時じゃなく、昼前くらいか。


「凄いわね……ここにいれば、海外旅行へ行く必要ないわぁ」


 うっとりと外を眺め、先生が言う。

 ワンレングスの長い髪をまた掻き上げ、ため息などつく。でも、なぜか横目で僕を見ている気がした。





「さて、お話とは?」


 こちらから水を向けてあげると、ガクッとずっこけるポーズを見せた。


「余韻がないわよ、余韻がっ」

「いや、そんなこと言われましても」


 よくわからんが、ムードがないってことか? なんで今この瞬間にムードがいるのか、謎じゃないだろうか。


「まあ……ゆっくりでいいから、聞かせてください」

「はぁああ」


 切なそうなため息をついて、彼女はしばらく俯く。

 やがて顔を上げた時には、なにやら決心がついたようだった。


「わたしの気持ち、前に話したわよね?」

「死にたいとか?」

「その後よっ」

「なに怒ってんですか……て」


 さすがに僕も気付いた……ああ、気付いたさ。

 そういや、好きとか言われたな。マジで忘れてたが。


『告白したでしょ?』


 ひそひそ声で彼女が言う。


『次の流れとして、当然わたしは、零君がわたしをどう思っているか聞きたいし、お付き合いもしたいわ!』



『え、そんなこと言って、いいんですか! 学校の先生なのにっ』



 身分が防波堤になっていると、最初から安心してたのに?


『人を好きになるのに、先生も生徒もないものっ』


 おぉ……随分ときっぱりと言われる。

 ていうか、そうすると僕は返事をしなきゃいけないわけか。

 いやしかし、僕はヴァンパイアなのに、人間女子と交際とか――



「――諸君っ」



 いきなりホームズ氏の声が響き渡り、僕は少なからずほっとして彼を見た。


「なんです?」

「どうやら、事件らしい」


 カウンターに置いた新聞を手で軽く叩き、彼は宣言した。

 ……ネタ元は新聞かぁ。


「しかもこれは、ダニー君が解決すべき事件だな」


 やけに確信ありそうに言い切り、また口元だけで笑った。


「なにしろ、ポルターガイスト現象だからね」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ