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トラックに轢かれた

「ところで」


 中坊のダニーが、長尾さんを見て首を傾げた。


「さっきの話をまとめると、最初は痴漢がよく出る道を通るのに、ご友人が長尾さんを護衛に頼んだんですよね。となると、今回もその人に囮役を頼むんですか?」

「いえ、まさか」


 長尾さんは、ポニーテールにまとめた髪が揺れるほど、強く首を振った。


「前回、かろうじて護衛の任を果たしたとはいえ、彼女には恐い思いをさせたのです。とても頼めないし、頼む気もありませんよ」


 期せずして、僕らは顔を見合わせた。


「じゃあ、大人の色香に期待して、ここは不破先生に頼みますか。思いっきり色っぽい格好に着替えてもらって。レースクィーンの衣装とか」


 僕がさらりと言うと、すかさず「ちょっとっ」と先生が険しい声を出した。


「応援間に合わなくて、いきなり押し倒されたら、どうするのっ。だいたい、そんな姿で歩いてるの学校の人に見られたら、クビになるでしょ」


 などと膨れっ面で僕を睨む。


「そもそも、向こうの好みじゃないという可能性もありますよね。相手は若い子ばかり狙っているわけで」


 ダニーが余計なことを付け足して、さらに先生が膨れた。


「あのねえっ」

「なら、わたしがっ。わたし、若いものっ」


 などとシオンが言い出したので、僕は慌てて口を挟んだ。


「冗談ですよ、僕もダニーも。そもそも長尾さんは、既に決心しているようだし」


 そうでしょう? とブレザーの制服姿の彼女を見ると、長尾さんはしっかり頷いた。


「はい。皆さんのお気持ちは有り難いですが、囮役は私が務める所存です」


 傍らに置いた、竹刀袋をちらっと見やる。


「まあ、僕らもいますしね」


 最初から予想済みの展開だったのか、ダニーが笑顔で頷く。

 好き嫌いの激しい奴だけど、長尾さんはお気に入りらしい。


「では、後は出撃だね」


 ホームズ氏が愉快そうに言ってくれた。


「店番は任されたよ。帰ってから、どんな化け物が現れたのか、ぜひ教えてくれたまえ」

「それは無論のこと」


 僕が頷くと、ホームズ氏は声をひそめた。


「それからもう一つ。仮に私がその痴漢君なら、のんびりと自分が狩られるのを待ちはしないと思う。逆に、長尾君の再来を手ぐすね引いて待ち、不意を衝くくらいのことは計画するよ。その可能性も、一応頭に入れておくといい」

「わかりました」


 僕は居住まいを正した。


「用心に越したことはないですからね」


 ホームズ氏に見送られ、どやどやと店を出た僕らは、問題の通学路には直行せず、まずはレストランで夕食を摂った。


 腹が減ってはなんとやらと言うじゃないですか? とダニーが意見したからだ。

 事実、シオンはとっくに夕飯の時間なので、僕も反対などしない。


 ただ、長尾さんが戦前いくさまえのような凜とした気配を漂わせているので、馬鹿話をするわけにもいかず、食事時間は終始静かに過ぎた。


 ちなみに彼女は途中で、「あいつと再会するのは望むところですが、私ではあまり囮の役に立たない可能性もありますね」などと、珍しく弱気なことを述べたりした。


 見た目は完全に凜々しい女子高生なのに、自分の魅力を心配しているらしい。


「いやぁ、大丈夫でしょう」


 前世では華々しい女性問題も起こしているダニーが、軽く言う。


「貴女は凜々しく、そして美しい。資格は十分過ぎるほどです。問題があるとしたら、一度やり合っているという部分ですかね」


 中坊とは思えない意見だった。


「あ、ありがとうございます……向こうも猛々しい男だったので、恐れて逃げることだけはないと思いますが」

「ていうか、君の好みは年下じゃなかったのかな?」


 僕が混ぜ返すと、ダニーは盛大に顔をしかめた。


「いや、なんでですかっ。ニーナの件はまた別物でしょうに」


 僕はもちろん、先生やシオンまで笑い、最後は和やかな食事となった。





 店を出るとすっかり黄昏時も過ぎ、外は真っ暗だった。

 問題の通学路へ着く頃には、ちょうどそいつが出没する時刻となるだろう。


 どこかの寺のブロック塀が延々と続く歩道を、僕らは雑談しつつ歩いていた――のだが。


 ……どうやら、全員揃いも揃って、油断しすぎだったらしい。

 特に僕は、聡いホームズ氏が先に警告してくれたのに、警戒はしていたものの、十分とは言えなかった。


 自分がモンスターだから油断したというのもあるが、まさか敵が、そこまでやるとは思っていなかったのだ。


 しかしそれはまあ、言い訳に過ぎない。




 目的地の通学路に着く前に、いきなり僕らは眩しいライトに照らし出され、足を止めた。止まるタイミングとしては、最悪だった。

 なぜなら、ちょうどそこで、でっかいトラックが道を逸れて突っ込んでくるところだったからだ。言うまでもなく、偶然であるはずがない。


 ガードレールはあるにはあったが、向こうは4トン以上はありそうな真っ黒なトラックである。僕はそばにいた先生とシオンを両手で掴み、安全な方へ投げ出した。幸い、ダニーと長尾さんは、危険範囲外だったのだ。


 お陰で、シオンや先生を含めて、みんな無傷だったと思うが。


 ……間抜けなことに、僕自身はガードレールをぶちこわして突っ込んで来たトラックに、正面からまともに撥ねられた。



いつもながら、忘れた頃に書きますが。

皆さん、いつもご感想や評価などを頂き、ありがとうございます。

運営の方からまで来ててたまげましたが、同じくこちらでまとめてお礼とさせていただきます。

ありがとうございます。

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