表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/27

見事に復讐をやり遂げ、血まみれの死体に変えるがいい


「ああ、そう」


 僕は軽く頷き、わざとらしく尻餅ついてる中華夫婦を見た……いや、二人とも日本人だけど。


「ところで、僕はダニーから君のだいたいの事情を聞いたんだ。気持ちはわかるけど、君はあの二人を殺す気かな」

「そうよっ」


 おお、言い切ったぞ。


「ママはあの二人に殺されたも同然なんだからっ。ぜったい、ぜーーーったいに許さないっ」


 動けない野次馬がざわめき、そして中華夫婦のうち、まんまるなおばさんが「あんたはっ」と怒鳴りかけたので、僕はその場で命じた「許可なく、話さないように」と。


 もちろん、真紅に染まった瞳をざっと周囲に向けた後で。




「そ、そんな目、別にこわくないもんっ」


 なかなか可愛い顔立ちなのに、慌てて目を逸らした幼女が叫ぶ。

 だいぶ根性のある子だ。


「別に邪眼以外にも、邪魔する方法はいくらでもあるんだけど……君、勘違いしているよ、ニーナ・クラギーナ」

「……えっ」


 幼女が初めて反応した。

 僕を見上げ、「にーなって、たまに夢で見る、平凡そうな外人おばさん?」などと訊く。


「彼女の実績はとても平凡には遠いけど、多分当たりだ。君は転生なんだよ、その人の。夢で見るのも、過去世が蘇りつつあるからだろう」

「て、転生って……」


 自分のことなのに、まだ信じ難いのか、幼女ニーナは薄い眉をひそめる。


「それはともかくっ。じゃまはしないで! 鼻血なんか後でふけば、へーきだもんっ」

「いや、僕は邪魔なんかしない。ただ……ささやかな忠告と、それから君の復讐をやりやすくしたいだけだ」


 言うなり僕は、動けなくて脂汗かいている野次馬達に尋ねた。


「これだけ人数いれば、一人くらいナイフとか持ってる人いません? いたら手を上げて」


 おお、尋ねてみるもんだな。

 ひょろっとした若者一人が、嫌そうに手を上げたじゃないか。


「よろしい。君、こっち来て僕にそのナイフ貸してくれないかな」


 返事はなかったが、本人は汗まみれの顔で立ち上がり、ゆっくりとこちらへ来る。

 薄いパーカーの下に、チェ・ゲバラのTシャツなど着込んでいる、なかなか反骨の人だった。まあ、体格はとても喧嘩に向かなそうだけど……僕と同じで。


「ありがとう」


(抗議したいのに声が出ないのか)口をパクパクさせたその人から飛び出しナイフを受け取り、僕は低頭した。


「元の場所に戻って、待機してください。ちなみに、このナイフは返しません」

「レイ君、どういうつもりなのっ」


 む……なぜか先生の呼び方が、ノーラと似てきて、僕は注意しそうになった……でもまあ、影踏みさんよりマシかもしれない。

 そう思い、辛うじて堪える。

 ダニーもなにか言いたそうだが、僕は無視してニーナに近付いた。


「来ないでっ」

「これを渡すだけだって」


 ナイフの柄の部分を向けて、差し出す。


「え、ええっ」

「……どうせなら、コレで刺しなよ。これなら、他へ迷惑もかからない」


 僕はしれっと言ってやった。


「PKでなにかぶつけて撲殺するより、よほど正しい復讐の仕方だと思うけど。それに、人を殺す覚悟があるなら、せめて肉にナイフが刺さる感触くらい、覚えておいた方がいい」


 僕は大真面目に言ってやった。


「この先、誰があのおばさん達を殺したのか、決して忘れないように」


「レイ君っ」

「マスター、どういう」

「静かに!」


 僕は振り向きもせずに声に出した。

 今のは邪眼を使ったわけじゃないので、もちろんまだ邪魔はできたはずだが、なぜか二人とも素直に黙り込んだ。


 僕としては有り難かったけど。




「ほらっ」


 僕は重ねて言い募り、ナイフを彼女の眼前に差し出す。


「とりあえず、切れ味に過不足ないから、喉でも狙って掻き切れば、一発だ。周囲は気にするな。僕が結界を解除しない限り、どこからも邪魔は入らないよ」


 ニーナの後ろの方で、中華のおばさんが新聞紙みたいな顔色になったが、僕は一顧だにしない。殺される正統な理由とは言わないが、あの人は確かに、恨まれるような言い方をした。


 ある意味、あの人が選択した結果がこれなのだ。




「人間が人間を殺そうっていうんだ、お手軽にやるべきじゃないと思うね。あの夫婦の目にも、きっちり焼き付けておくといい。君が、君こそが、二人を殺した犯人だと」

「ちゃ、ちゃんとした理由があるもんっ」

「ちゃんとした理由かどうかは、あくまで君の判断だけどね」


 肩をすくめ、言ってやる。


「でも、彼らが死に値するというのが君の考えなら、僕は別にその考えを否定しない。見事に復讐をやり遂げ、血まみれの死体に変えるがいい」

「で、できるわよっ。馬鹿にしないで!」


 幼女は真っ赤になって、僕からナイフをもぎ取った。


 ただし、少し手が震えていたけど。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ