表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/27

幼女版ニーナ、暴れる

 などと僕が思案した途端、スマホが振動した。


 そばに置いてあったスマホを見やり、僕は顔をしかめる。あまりのタイミングのよさに、なにかこう、予感が生じたのだ。




「もしもし……?」


 電話に出ると、案の定だった。

 お相手は、この万年ガラ空きカフェ、「アヴァロン」の所有者である。



『レイ君を愛する女よ。さあ、誰でしょう?』



 ……いや、誰でしょうじゃないだろう。


「ノーラさんでしょ? どうしました、こんな時間に」


 彼女はほぼ完璧な日本語を話せるが、僕の名を呼ぶ時だけ、少し独特の訛りがある。まあ、わざとかもしれないが。


『そんなことより、こういう時は「僕も愛しているとも、ノーラっ」と返事してくれなきゃ』


 たわけた物言いに頭が痛くなったが、電話を切るわけにもいかない。

 なにしろたった今、この人の力を借りる可能性が出て来たところだ。


「ヤケにタイミングいいですが、なにか予感でもありましたか?」


 息を詰めるようにしてこっちを見つめている皆に肩をすくめ、僕は尋ねてみる。

 予想通り、『そりゃ私は大魔法使いですからね』と当たり前のような声音で言った。


 ちなみにノーラさんは、魔女と言われるのは嫌いらしく、魔法使いと呼んでもらいたがる。魔女という呼称は、前世で人々に目の敵にされた嫌な記憶を刺激されるそうで。


 どこまで本当か知らないが、僕はしばしば「魔女」と言いかけてしまうので、注意が必要だろう。

「魔女」の方が、まだしも一般的だと思っているからだが。


『お礼は、「ノーラさん、愛してるっ」という言葉だけでいいわ』


 ふざけている調子ではなく、大真面目な声なのが嫌だ。


「まだ何も頼んでませんけど?」

『うふふ……でも先々で頼みごとができると思っているでしょう? その予想は当たるわよ、ええ。楽しみにしているわ』

「しかし――」

『あ、それと』


 人の話を聞かずに、ノーラさんが割り込む。


『できれば、急いだ方がいいわね。多分、そこにいるダニー君の思うようなことにはなってないから』


 予言のようなセリフと共に、ガチャ切りされた。

 全く、相変わらずなんでも知ってて……しかも、思わせぶりな人だ。

 しかも、言う通りにしないと、たいがいロクなことにならないからな……。




「養母のノーラさんですよ」


 皆に教えてやり、彼女の言葉も伝えてやった。


「……というわけで、どうやら急いだ方がいいようです」

「約束の時間には、まだ間がありますが、じゃあ早めに出ますか」


 早速ダニーが立ち上がったが、先生が興味深そうに僕を見た。


「養母さんって、ここの結界を作った、本物の魔女だとかいう方? やっぱり、ツバの広い黒いトンガリ帽子被って、杖持ったりしてるのかしら?」


 なんだその、ゲームに出て来そうなテンプレ魔法使いは。


「魔女じゃなくて、大魔法使いと言わないと、彼女の機嫌を損ねますよ。ちなみに、ノーラさんの外見は僕と同じくらいの年に見えるし、黒い帽子なんか被りません」


 言うなり、僕はまじまじと目を見開いた先生を無視し、カウンターを出てホームズ氏に頼んだ。


「申し訳ないですが、また留守番をお願いします」

「うむ。気を付けて行きたまえ」


 鷹揚に頷く彼に低頭して、僕はダニーと店を出た。

 ……というか、当たり前のような顔で先生もついてきたが。


 ダニーはいい顔をしなかったが、先生が僕に「わたしも一緒にいっていいでしょ?」と尋ねたので、僕は「まあいいですけど」と答えてしまった。





「マスター!」

「いや、大人がいた方がいいかもしれないじゃないか。なにか面倒ごとが起きた時にさ。それに、相手はまだ子供だし」


「……いやぁ、あの子はかなり冷静だと思いますけどね」


 ダニーはそう述べたが、それ以上は文句つけてこなかった。

 僕らは前と同じく夜道を黙々と急ぎ、問題の中華料理屋へ向かったが。


 ……あと数分で到着というところで、ドーンッというなかなかずしんと来る破壊音がした。

 期せずして、僕ら三人の足が止まる。


「今の聞こえた?」

「聞こえましたとも」


 僕は渋々頷いた。


「もちろん、気のせいかもですが、なぜか僕らが向かう方から聞こえた気も――」


 あいまいに指摘しかけた瞬間、今度はバンバンッという、なにか大きな物が転がるような音がして、沈黙していたダニーがいきなり走り出した。


「うわぁ」


 僕も嫌々ながら後に続く。

 今更遅い気がするので、別に全力疾走などしなかったが。


「ま、まさか、ニーナ・クラギーナの幼女が暴れてる――とか!?」

「かなりの確率で正解です」


 僕は短く答えた。

 幼女版ニーナは、どうやらダニーとの約束など、反故にしたらしい。


 あるいは、最初から時間稼ぎに過ぎず、守る気はなかったのかも。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ