あの有名人も、日本に転生していたのか!
「ダニー、ぼけっとするなって!」
「――マスターっ」
驚きのあまりか、集中が欠けそうになっているダニーを見ていられず、僕は駆け寄って前に立ちはだかり、飛来した自動販売機を思いっきりぶん殴った。
PKの方でなんとかすりゃよかったのだが、とっさに手が出てしまったのだ。
自動販売機はバーンッという、とんでもない破壊音と共に、ややくの字に曲がって何メートルもすっ飛び、最後は公道上に落下してゴロゴロと転がった。
後から通過しそうだった車が、慌ててハンドルを取られて蛇行していた。
ああ、しまった! 余計に目立ってしまった。
当然のように野次馬達が歓声と驚きの声を上げていて、僕は舌打ちした。
唯一よかったのは、ポルターガイスト現象の根本たる誰かも、僕の奮戦に驚いたのか、宙に浮いていたゴミや小石が、全部落下したことだ。
僕はここぞとばかりに、「消えろっ」と小声で叫んで力を解放し、周辺の街灯を全部切断してやった。
毒を食らわば、皿までだ。
一気に周囲が暗くなり、またまた野次馬が騒ぎ始める。
この隙に、僕はダニーの腕を掴む。
先生の方は、言われずとも駆け寄ってきてくれた。
「撤収するぞ、ダニーっ」
「でも、僕はまだ」
「状況を見ろって」
素早く周囲を手で示す。
「あの中華料理店に、原因となった少女がいなかったんだから、野次馬の中にいるんだろうさっ。でも、今は探す術がない。出てくる気はないようだし、こうなったらもう戦争も同然だぞ? なら、向こうが有利なステージでやり合う意味が、どこにあるんだっ」
「そ、それはっ」
「一時撤退は、戦略の基本よっ」
先生も力強く言ってのけてくれた。
まあ、逃げたいだけかもしれないけど。
先生の言葉に動かされたわけじゃないだろうが、ダニーは薄闇の中でため息をついた。
「あなたの言う通りだ、マスター。……今宵は撤収しましょう」
「よくぞいった!」
僕は破顔し、先生に合図して早速その場を立ち去ろうと――
「……ぐっ」
「ど、どうしたの!?」
うずくまった僕を見て、先生が悲鳴を上げる。
「だ、大丈夫です……この程度っ」
胸を押さえながら、僕は自分の心臓に加えられた圧迫感と戦う。どうせ本気じゃないだろうが、それで怯えると思われるのも、心外だ。
ダニーのセリフじゃないが、僕を誰だと思っているのか。
「おいっ、あまり僕を……甘くみない方がいぞっ」
痛みを堪え、小声で恫喝してやった。
「どうせ聞こえているんだろう? 言っておくけど、相手の肉体に直接PKを振るう時は、ある意味では、精神的に繋がってる状態だとも言えるんだっ。その証拠を――今見せてやるっ」
立ち上がると同時に、僕はおおよその方向を限定して、力をはね除けてやった。
心臓に加えられた圧迫感を力ずくではね除けたことで、相手にも多少のダメージはいったはずだ。その証拠に、心臓の方はすっかり正常な鼓動を取り戻した。
「今のうちだ、行こうっ」
「はいっ」
「ええ!」
今度こそ意見は一致し、僕らは急いでそこから撤収した。
どこかで女子アナの声が呼んだ気がしたが、もちろん、誰も止まらなかった。
(しかし……最後の攻撃で、犯人が誰かわかった気がするぞ……まさかあの有名人も、日本に転生していたのか!)
駆け足で現場を去りつつ、僕はひそかに思っていた。