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前世と今生を通じ、初めて自分に匹敵する能力者と激突


「うわあっ」

「ほ、本当にポルターガイストかっ」

「デマだと思ったのにぃ!」


 周囲の野次馬が次々に騒ぎ出す。


「いやっ。影踏みさんっ!」


 先生も手を伸ばし、僕の腕にしがみついてきた。

 機嫌いいのは、ダニーだけである。


「これは霊によるものじゃない! やはり、PKサイコキネシスだっ」


 一拍置き、歓喜の声を上げていた。




「……無礼なっ」


 僕は一人だけむっとして、先生を支えて断固として地上に降りた。

 ホームズ氏に指摘されるまでもなく、PKの真似事くらいなら、僕にだって可能だとも。


 同じくダニーも下りて来たが、その他の野次馬やテレビ関係者はそうはいかない。しばらくグラグラしながら喚いたり叫んだりしていたが、そのうち、糸が切れたみたいに落下して、腰やら背中やらを打ち付けていた。


 呻き声が辺りに満ちる中、ダニーは一人、鋭い目つきで周囲を見渡す。


「どこだ、どこにいるっ。君はどこなんだっ!?」

「ダニー、カメラに注意しろっ」


 別の意味で周囲が見えていないダニーに、僕はすかさず警告した。

 腰の抜けた女子アナが、得体の知れない力に平然と逆らった僕らを見て、ふいに興味を覚えたらしい。


 今ので特に特に強く腰を打ちつけ、盛大に悲鳴を上げている中華のおばさんは放置で、カメラマンに向かって僕らを指差した。


「あの美形二人を撮って!」

「わたしは員数外なのね……」


 先生がむすっと言う。


「あんなのに撮られて、嬉しいわけないでしょうに」


 断固として述べ、まだキョロキョロしているダニーに、小声で指示した。


「僕はテレビ局の方をっ。君は野次馬達の携帯カメラを警戒してくれ」

「……了解。確かに映像を記録されるのは面白くないですね」


 ダニーも頷き、ようやくやる気を出してくれた。

 もちろん僕もこそっと力を振るい、厚かましいテレビ局のカメラの方へ、そっと手を振る。もちろん挨拶したわけじゃなく――




「あぁあああっ」


 狙い通りの結果になり、カメラマンが叫んだ。


「か、カメラの視野が真っ黒にっ」

「えーーーっ。スクープかもしれないのにっ」


 女子アナが喚いたが、僕の知ったことではない。

 野次馬の方もスマホや携帯が壊れたと叫ぶ者が後を絶たず、ダニーも上手くやったようだ。


「肝心の女の子の存在は?」


 騒ぎが大きくならないうちに、僕は尋ねる。


「僕が訊きたいですよ! 今の僕は霊媒の力がほとんどないんですっ。そっちの力は借りることができないんですって。マスターの力で、なんとかなりません!?」

「少なくとも、店の中にあと残っているのは、親父臭のする人が一人だけだぞ? 多分、あのおばさんの夫だな」

「そ、そんなのわかるのっ!?」


 先生が驚いたように僕を見る。


「もう知ってるはずでしょ? 僕はモンスターですよ」


 小声でそっけなく言ってやる。

 この先生、まだ信じてないのかと思ったのだ。


「体臭や気配はもちろん、僅かな温度変化すら僕には明らかです。あの店内に、体温があるような奴があと何名いるのかくらい、わかりますとも。とはいえ――」


 僕は苛々して周囲の野次馬共を眺めた。

 這々の体で逃げようとしている奴もいないではないが、ほとんどはまださほど痛い思いをしていないのか、好奇心の方が勝っているようだ。


 めんどくさいことに、逃げずにことの成り行きを見届けようとしている。





「外の連中に犯人がいるとしたら、お手上げだ。だいたい、店の外にまで現象が起きるとは思わなかった」


 ――だから撤収しよう、と持って行きたかったのだが、あいにく中坊のダニーは諦めが悪かった。彼はどうも、なんとしても同好の士を見つけ出したいらしい。


「なあ、君達!」


 人混みは苦手なくせに、野次馬達に向かって叫ぶ。


「本当は、その中にいるんだろ? 誰だ、誰が力を振るっているんだ? ポルターガイストに見せかけて、なにをしようとしてる!?」


 案の定、「なに言ってんだこいつ!?」的な目で全員がダニーを見返したが、しかし、明確な返事もあった。

 つまり、突然、近くの自動販売機の隣にあった空き缶入れが倒れ、バラバラと空き缶が溢れ出して宙に浮き、さらに道端に落ちていた石ころやその他のゴミなどが一斉に浮き上がる。


 そして、あたかも即席ミサイルのごとく、叫んだダニーへ向かって殺到してきた。

 とはいえ、そのどれもが、ダニーの身体に触れもしなかったが。

 飛来した全ては、空中で停止してしまった。あたかもダニーの眼前で、見えない壁に阻まれたかのように。



「笑わせてくれるじゃないか、おいっ」



 ぎらつく挑戦的な目で、前世で「史上最高の霊媒にして最強の超能力者」と謳われた少年が、周囲に叫ぶ。


「挑戦なら、受けてやるとも! 誰を相手にしているつもりか、わかっているの――」


 途中でダニーの声が途切れた。

 今の今まで、空中に浮かんでそれ以上進めなかったはずの空き缶その他のゴミが……どれもブルブルと小刻みに震え始めている。まるで、これをやらかした人物がさらに力を加え始めたように。


 しかも、今度は自動販売機本体までが固定金具を破壊して浮き上がり、追加で飛んで来た!


「……うそだろ?」


 呆然とダニーが呟く。



 もしかしたらこの中坊は、前世と今生を通じ、初めて自分に匹敵する能力者と激突しているのかもしれない。


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