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大好きでたまらない  作者: 流美
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プロローグ

 やってしまった。もうとにかくやってしまった。人生を捧げてしまった。俺は法を犯してしまった。

 今年で30歳。これまで平凡を取り繕い、優しくて真面目な普通のサラリーマンを演じてきた。演じて、きたんだけど。


「おじさん、ママどこ?」

「あ、あぁ……ママね……」


 口から吐き出してしまいそうな罪悪感。もやもやしていて気持ちが悪い。だけどそれを押し込めているのは、高鳴る胸の興奮。

 はるかに大きく、力強く、幼少期の無邪気なワクワク感を思い出させた。自分の欲のままに動いてしまうのが、こんなにも快感だったかと。


「ねぇママは?」

「いや、ママはだな、その……」

「ママいないの? なんで?」

「し、しばらくおじさんと暮らすんだ。分かるか?」

「やだ。おじさん知らないひとだもん」


 おじさんと呼ばれてるから、おじさんと自称してみたが案外心にくるものだ。それに、知らない人って。その知らない人に抵抗せず誘拐されたのは君だろう……。

 見たところ、まだ幼稚園児か。でも、そこそこハッキリと喋られているところを見ると、小学生か? 名前も知らない。どこの子どもなのかも分からない。

 公園で一人、砂場遊びをしていたから、つい衝動的に。


「おじさんは大杉健人(おおすぎけんと)。君の名前は?」

「おれ、このみ! 5歳!」

「……そうなんだ。このみちゃん、よろしくね」

「うん!!」


 やだって言ってたくせに、素直に返事をされたことにも驚きだったが何より、一人称が「俺」のほうが耳についた。

 子ども特有の甲高い声と、その中に含まれる女児の色。外見だって、ロングでふわふわの髪の毛は可愛らしく三つ編みにされているし、服だって女の子らしいピンクのワンピースだ。それなのに、俺ってどうなのか。

 まぁ身の回りの人に影響されただけなんだろうけど、勿体ないような気がする。


「このみちゃん。今日からは自分のことを、私、って言うんだよ」

「わたし? やだ、おれがいい!」

「このみちゃんは良い子だから、私って言えるよね?」

「うーん……。うん、わたしって言える!」


 単純で素直過ぎるんじゃないかと思う。俺的には楽だが、むしろ更に罪悪感が湧き出てきそうだ。しかし、こんな素直で可愛い女児の喜ぶ笑顔は、どんなに良いんだろうと思わず顔がニヤける。


 そう、俺は、人の喜ぶ顔が狂気的に大好きだ。

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