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彩る君に恋をした。  作者: 椎名 椋鳥
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宣戦布告


アードラの言われた通り俺たちは臙脂色の制服に袖を通す。

俺は早めに着替え終えたのでヒヨリを待つ。


「ね、ねぇ……どう? 制服似合ってるかな?」

ヒヨリが恥ずかしそうに聞いてきた。赤い髪に臙脂色の服ってなかなか合うものなんだと新たな発見。それに短いスカート。


「すごく可愛いと思うよ……」

 こういうことを面と向かって言うのって恥ずかしい。

「へへっ、良かったっ」

 ヒヨリは少し飛び跳ね、艶やかに微笑む。

昼食を摂るためヒヨリが城内をあちらこちら見回りたい気持ちを俺は宥めながら食堂へ向かう。


「ひろーい!」

 普通の高校にある体育館並みの広さがある。

そして壁には様々な絵画が立て掛けられている。

気持ちが盛り上がり一つずつじっくり観ようとした俺を今度は逆にヒヨリに宥められるというか、強引に引っ張られる形でカウンターに連れて行かれた。


それぞれ注文し、その場で受け取って席に着く。

俺が注文したのは仔牛肉を使ったカツレツ。

そこに何故かブルーベリージャムが添えられて入る。

彩り的にはサラダの緑、揚げ物のキツネ色にブルーベリージャムの藍色はバランスが良いが果たして合うのか。ヒヨリはクヌーデルという小麦粉やパンを丸めて茹でたものを入れたスープ。

揃って「いただきます」と言って食事に入る。


カツレツ単体でも十分美味しいが、意外にもブルーベリージャムを乗せるとブルーベリーの酸味がカツレツの脂っこい風味を消してくれるのでさらに美味しくなった。

それに例えば酢豚にパイナップルを入れるようなもので食欲増進という意味もあるようだ。

ヒヨリの食べているものは量的には多くはないが、

「ボリュームはそんなにないけどお腹減ってないのか?」


 彼女もなかなかハードな運動をしていて相当なエネルギー量を使ったはずだ。

「今は全然減ってないんだ」

「へぇ、食いしん坊だと思っていたんだがな」

「もうっ! 怒るよ!」

囃し立てる俺にヒヨリが顔をプクッと膨らませこちらを睨んだが、すぐにやめにっこり笑う。

真に楽しそうなヒヨリを見ていると出会ったばかりなのに幸せな気持ちになる。


「君たちだな。新入団員は」

 食事中、臙脂色の制服の男が話しかけてきた。同じシュタイク騎士団の団員だ。

「そうですが」

「精霊使いなんだってな。頑張れよ、期待してるぜ!」

 軍隊特有の縦社会でどやされるかと思ったが、優しく声をかけられた。

この団員に話を聞く限り、この騎士団はそういうものはないらしい。


俺の現実では見られなかった優しい世界。


アードラを待っている間、扉の横にある人物画に目を向けていた。


豪華な椅子に腰掛ける水色の髪の綺麗な女性。


「湊君って絵に興味あるの?」

「え……あぁ、昔ちょっと描いていたことがあるから」

 興味津々で聞いてくるヒヨリをサラリと受け答えしながら、絵をじっくり鑑賞する。



「おまたせ、では行こうか。失礼のないようにね」

 アードラが遅れて現れ、扉を開ける。いよいよ王に謁見できる。

玉座の間に入ると扉から玉座まで数十メートルにも伸びるレッドカーペット。

その深紅の絨毯の先に一人の中年くらいの黒い顎髭を生やした男、ベルモント王が堂々座っていた。


普段からあまり緊張はしない方なのだが、この大きな一国の王に謁見するとなるとさすがに背筋が伸びる。王の近くまで寄り、片膝をつく。


「王様、新たに加入した騎士団員を連れてまいりました」

「うむ、ご苦労であった。其方の新入団員の諸君、わしがベルモント王国の王アルベリヒだ。一人ずつ名前を聞こうか」


俺たちは名前と年齢を申す。

「二人とも十七か。うちのレオナと同い年だな。兵よ、レオナを呼んでこい」

 そう兵士に伝え、王は続ける。

「シュタイク騎士団の試験に合格したというのなら相当な手練れのようだな。騎士団の役目は主に王国周辺の調査や事件の解決だ。問題によっては厳しい任務にもなるであろう。心してかかるがよい」

王様というものに偏見を持ちすぎていたのか、もう少し横暴な性格かと思っていた。

しかしこの国の王は違う。

部下を思い、国を思う非常に素晴らしい王だと感じられる。


ガチャリ、と扉を開ける音がして人が入ってくる足跡が聞こえる。

ついに会えるのか、このために騎士団に入ったと言っても過言ではないくらいだ。

いろいろ聞きたいこともある。


「お待たせいたしましたお父様」

 後ろから、美しい声が聞こえ、その声の主が我々の目の前に現れた。


「我が娘、レオナだ。そこにいる二人が新しくシュタイク騎士団に入った湊とヒヨリだ。歳の近い話し相手もいなかったみたいでな。仲良くしてやってくれ」


「初めまして、ベルモント王女レオナです。よろしくお願いします」

穏やかそうな性格、誰もが憧れる美貌、ヒヨリも見惚れているようだ。

このベルモントで一番の才女。

花顔雪膚。容姿、性格ともに非の打ちどころがない。

あまりに身分が違いすぎて男の人はおろか、女の人もお近づきになれない高嶺の花である。



「王様、例の件についてご相談が……」

アードラは重々しく口を開く。

「ベーレ王国のことか。兵士たちにはもうその旨は伝えてある。急な戦闘で腰が引けるということも無かろう」

「せ、戦闘ってどういうことですか?」

ヒヨリが驚き、声を大にして問う。


「一週間ほど前、ベーレ王国から宣戦布告の通達が来たのだ。ベーレはベルモントの北東にある国で平和的とまではいかないがこの地方の均衡を保ってきたもう一つの国だ。いかなる外交的解決も受け付けず、三日後に攻める、という内容。こうなれば我々も受けざるを得ない、ということだ」


ヒヨリは唖然として肩を落とす。俺も正直驚きだ。あの美しく、人々の賑わう城下町が火の海になる…。


そうか、これが原因だったのか……。


通常の世界線で言えばこの国はベーレ王国と戦い敗れ、そしてあの絵に描かれたような結末を迎える、つまりベルモント王国の滅亡へと。

俺がこの世界に来た理由がなんとなくわかった気がする。

そして俺は何をするべきなのかようやく見えてきた。



——この王国を救い、未来を変えること。






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