黒い炎 湊vsアードラ
「では、はじめ!」
号令と同時に唱える。
「《変化》」
クロウは変化し、俺は両手鎌を装着。
アードラは唱えない。確かに腰に剣を指しているが……。
なるほど補助型というわけだ。俺は相手の正面へ行き、左の鎌を上から振り下ろす。
だが、アードラの持つ剣に止められ、振り払われてしまった。簡単に攻撃が当たるはずもない。
くじけず正面から両手に持ている鎌で交互に連続で振るが、後ろへ下がりながら避けられて当たらない。
「君は戦いの初心者ですね。真っ直ぐ正面か突っ込んでくるとは」
その瞬間、アードラは一瞬で俺の背後に回り、背中に蹴りを入れる。
吹き飛ばされた俺はすぐさま立ち上がる。アードラはどこに行った?
目線を泳がして辺りを見回してもいない。正面を見て探していた俺は、どこから現れたのかアードラが懐に入り込み、肘打ちをする。
再び吹き飛ばされた。
「ぐふっ……」
腹を抑えながら屈む俺に対して、
「君は精霊を使った戦い方を理解していません。ヒヨリさんとラモーナの勝負を見ていなかったのですか?」
二人の戦い? そうか、何か技を出すときに念じていた。
心の中で念じる。
すると、黒いオーラが両手に持っている鎌を覆い始めた。
「そうです。それこそが精霊の力です」
アードラは少し嬉しそうな表情を浮かべる。
すると目にも止まらぬ速さで移動し、連撃繰り出してきた。
バックステップでかわしつつ、反撃の機会をうかがう。
この黒いオーラをうまく使えないものか、この状態のまま切り込むには芸が無さすぎる。さっきと同じパターンになるのがオチだ。
「これはいけるか?」
呟いて、黒いオーラを纏った右鎌を横に一振り。
降った残像が黒い炎としてアードラのもとへ飛んでいく。
その炎を追いかけながらアードラに近寄り、炎を振り払ったところを攻撃。鍔迫り合いに持ち込んだ。
激しい打ち合いから、数歩引いて黒い炎を撃つ。
アードラが炎と対峙している間に後ろに回り込み、首元に鎌を突きつけた。
——パーフェクト。
と思うようにはいかず、背後に回ることを読んでいたのか、アードラも炎を振り払い、剣先を俺の首元に突きつける。
相打ちか。
アードラが笑顔で、
「合格です。少しのヒントでここまでやるとは……。いい戦力になりそうですね」
「ありがとうございます」
俺は鎌を引きクロウに「お疲れ」と言って変化を戻し、アードラも剣を鞘に戻す。
お互い握手をしながら健闘を讃え合っていると、闘技場の入り口付近から高くて大きな声が聞こえる。
「湊君、どうだった?」
ヒヨリの声だ。そう言いながら駆け寄ってくる。
「合格だよ。それより身体の方は大丈夫なのか?」
「よかった。一緒に合格できて。身体の方はもう大丈夫だよ」
無事でよかったと俺は安堵の息を漏らす。
「二人はシュタイク騎士団の団員に成りました。ですのでまずは王様に謁見しなければなりません。昼食を摂り、制服に着替えてから行きましょう」