試験開始! ヒヨリvsラモーナ
カーテンの隙間から入ってくる日の光が目にしみる。
もう朝か…。
ノロノロとベッドから起き上がり、大きくあくびをする。頭がまだ回ってないので、ボーっとしていたら、部屋をノックする音が聞こえた。
「湊君おはよう、起きてる? 入っていい?」
「あーい。起きてるよ」
ヒヨリがドアを開けて入ってきた。ふと目が合って顔を赤く染め、すぐさま目を背ける。昨日の一件があったからか。
「あっ……朝ごはんも作っておいたから一緒に食べようよ」
ヒヨリは少し慌てた口調。俺達は朝ごはんを食べ、騎士団の試験が行われている城へと向かう。
市街のメインストリートをまっすぐ歩いていき、少し丘を登るとベルモント城に着いた。
城は近くで見るとまた圧巻である。俺の世界で言う、中世ヨーロッパのゴシック様式を使った魅惑的でもあり、強固な造り。そんな金城湯池と言っていいくらいのお城だった。
門番の兵士に騎士団の入団試験を受けたいとの趣旨を話すと中の人にそれを伝えてくれて、しばらく待ってくれと言われた。十分ほど待っていると、臙脂色の制服を着ている男が話しかけてきた。
「試験を受けるのは君達だね?」
「そうです」
「じゃあついてきてくれ」
そう言われたのでその男についていく。着いたのは少し広めの闘技場。陸上のトラックのような小判形の造り。辺りを見回すが観客が見る場所はない。訓練用の広場なのか。入ってきた入り口とは反対側の入り口に一人の男が仁王立ちしている。
「アードラ団長、入団試験を受けたいという二人を連れてきました」
「ご苦労でした。下がっていいです」
俺たちを案内してくれた団員は駈歩でこの場から離れる。
「初めまして、王家直轄部隊シュタイク騎士団団長のアードラです」
凛々しい声ながらも丁寧な口調。
彼は自分の左胸に右手を当て軽くお辞儀。つられて俺とヒヨリもお辞儀する。俺達も遅れて自己紹介。
「さっそくだけど入団試験を受けてもらいます。見た感じ君達は精霊使いだから、そうだね…湊君は僕と、ヒヨリさんは副団長と戦ってもらいます。ルーシュ副団長出てきてください」
「あいよ!」
どこからともなく声が聞こえ、いつの間にか黒髪ロングヘアの女性がアードラ団長の横に立っていた。団長が彼女を紹介する。
「彼女はシュタイク騎士団、副団長のラモーナです。それではまずヒヨリさんからお願いします」
ラモーナと名乗る女性が興味津々な顔で俺たちを見て、
「へぇ、あんたたち精霊使いなんだね。面白い相手だね。よろしく頼むよ」
ヒヨリは緊張しているのか、黙り込んでしまっている。
少し励ましてあげようか。
「ヒヨリ!」
「ふぇ?」
俺は柔らかい笑顔を見せ、
「ふぇ? ってなんだよ。大丈夫だって、がんばれ!」
「そ、そうだね。がんばりゅ」
あ、噛んだ。相当緊張している。まぁ、あとは自分次第だ。がんばれよヒヨリ。二人が位置に着き、俺とアードラは闘技場の隅へ移動。アードラが号令をかける。
「二人とも位置に着きましたね。それでは……はじめ!」
小さな牛の精霊を引き連れているラモーナは精霊使いのようだ。そしてなんの前触れもなく、二人は同時と言っていいほどのタイミングで、
「《変化》」
二人の精霊は変化しヒヨリの精霊の一匹ペティは杖に、そしてラモーナの精霊は大剣になった。
ラモーナ自身の身長より大きな剣だが彼女は軽々と持ち上げている。
ヒヨリはガチガチに緊張して足がすくんでいる。ラモーナは大剣を担ぎ、
「来ないなら私から行くよ!」
ラモーナはそう言いながら走り出し、ヒヨリの目の前に来ると大剣を大きく振り下ろす。
ラモーナに背を向け、辛うじてかわすヒヨリ。
追いかけるラモーナは下から大剣を振り上げて攻撃する。ヒヨリ……なんとか避けてはいるが精神的に追い詰められているな。隣で見ていたアードラが冷静な口調で話し出す。
「ラモーナは強いよ。戦闘経験は豊富。圧倒的な数を相手でも物怖じしない。あの大きな剣で全てを薙ぎ払う。この国で王様を除いて三番目に強いのが彼女だ」
「三番目って、一番強いのはアードラ団長、じゃあ二番目は誰なんですか?」
「違うよ。僕は二番目だよ」
えっ……、アードラ団長が二番目?
「じゃあ一番は誰なんですか?」
「……レオナ様です」
レオナ……あの子が一番強いのか。
何も声を発さず、ただ逃げ惑う一方のヒヨリを闘技場の壁際に追い詰めたラモーナ。
余裕の笑みを浮かべながら剣を突き立てるラモーナに対し、両手で強く握りしめ涙目で怯えるヒヨリ。
何してんだよ……山賊と戦ったときはあんなに意気揚々としていたじゃないか。
確かにラモーナから感じる威圧感は只者じゃないことは戦ってない俺でも分かる。直接対峙しているヒヨリはなおさらそれを感じているだろう。でもそれじゃダメなんだ。
「ヒヨリ、しっかりしろ!」
俺は発破をかける。
「だって、敵いっこないもん。無理だもん……」
涙ぐみながら声を発するヒヨリに、
「無理って諦めるんじゃねぇ! チャレンジするって決めたんだろ? 俺と一緒に合格するんだろ?だったら全力でぶつかってみろ! 大丈夫だ!」
この言葉に自分も胸が苦しくなる。過去の自分に刺さる言葉。
ハッと顔を上げたヒヨリ。何かを決意したかのような表情。涙を拭い薄ら笑う。
「もう終わりかい? 精霊使いだから期待してたのにね。ガッカリだよ!」
ラモーナはそう言ってヒヨリに接近し大剣を振り下ろす。
「《炎の壁》」
唱えた瞬間ヒヨリの前に大きな炎の壁ができ、大剣を止める。
ラモーナは危機を感じたのか、後ろに下がって距離を取る。炎の壁は外側の方向へと弾け飛んだ。
「ありがとう、湊君。おかげで目が覚めたわ」
刮目し、自身に満ちた目。
「ほう……ここからが本当の勝負ってかい?」
「そうです、パティ行くよ!《炎玉砲撃》」
念じる精霊パティ。高く突き上げられたた杖。すると次々と火の玉が宙に現れる。三十個ほどくらいか。
「ラモーナさん。行きます」
まるで流星群みたいに一つ一つの火の玉がラモーナに向けて襲いかかる。あっさりとかわして再びヒヨリとの距離を縮めていくラモーナは走りながら目を閉じ念じ始めた。大剣に青いオーラが纏われる。一気に勝負をつける気だ。
「《大炎玉》」
ヒヨリも大きな火の玉を走ってくるラモーナに超至近距離で撃つつもりだ。
ヒヨリの頭上にジャンプ、上から振り下ろしヒヨリの目の前で火の玉と交錯。一歩も引かない鬩ぎ合い。
お互いが更に力を入れる。
その途端、爆発。
両者は爆風に吹き飛ばされた。ラモーナは少し傷を負ったくらいで軽々と立ち上がる。一方ヒヨリは倒れこんだまま。
「そこまで!」
アードラは大声で号令をかける。
俺はすぐさまヒヨリの元へと駆け寄り、抱き上げた。
「大丈夫かヒヨリ!」
「大丈夫だよ湊君……。ありがとう」
アードラがこちらへ来てこう言う。
「合格です。ヒヨリさんこれから一緒に頑張りましょう」
ラモーナがこう続ける。
「あんたやるじゃないか。最初はどうなるかと思ったが見直したよ」
「ありがとうございます。やったよ湊君……私……」
涙ぐみながら話すヒヨリによくやったと何度も言い聞かせ、ヒヨリを医務室へ送り届ける。
ヒヨリがあんなに頑張った。次は俺の番だ。
「アードラ団長、いつでもいけます」
俺とアードラは配置につき、ラモーナの号令を待つ。アードラは鷲の精霊使い。はたしてどんな戦いをするのか。