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彩る君に恋をした。  作者: 椎名 椋鳥
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晩御飯!晩御飯!

第二章 二つの王国


夜も更け、賑わっていた街も徐々に静かになっていく。俺たちはヒヨリの借りて住んでいる家に向かった。

ヒヨリが大家さんに事情を説明するとあっさり了承してくれたのだ。

俺は自分の部屋のベッドに横たわり、安堵の息を漏らす。ようやく落ち着いた。

寝転がりながら部屋の天井をじっと見ている。そういえばずっと学校の制服のままだ。

すると、俺の部屋のドアを三回ノックする音が聞こえる。俺は疲れた体を無理やり動かして気怠そうにドアを開けた。


「ねぇ湊君、晩御飯まだでしょ? 私が作ってあげよっか?」

 ヒヨリがまたまた誇らしげな顔で俺にそう言ってきた。


 そうか……晩飯もまだ食べていなかったのか、とお腹をさすりながら、

「そうだな。じゃあよろしく頼むよ」


 ヒヨリの部屋にお邪魔し、少し部屋を見回す。部屋は典型的なワンルームでコンパクトな作りである。

大体部屋の作りは一緒で、部屋に入ってすぐ右側にキッチンがあり、ベッド、窓側に小さな机が一つと椅子が二つある。

俺はその窓側にある椅子に腰掛けた。外を眺めているとキッチンからヒヨリの声が聞こえる。


「ちょっと待っててね。美味しいの作るから期待して!」

「えぇ……なんか怖いな」

「なに? 何か言った?」


般若のような顔でこちらを睨むヒヨリ。

「いいえ、なにも」

しばらく待っていると、ヒヨリが料理を持ってきた。

晩御飯は色々な野菜がゴロゴロ入ったホワイトシチュー。ホワイトソースの優しい匂いが部屋一面に広がる。


「どうぞ。ヒヨリちゃん特製野菜シチューだよ! パンもあるからね!」

「おぉ……すごく美味しそうじゃん!」


 二人で手を合わせ、「いただきます」と言ってシチューに手をつける。

「美味い美味い! すごく美味しいよ!」

「でしょ? 私、料理は得意なの。他にもいろいろ作れるの!」

 ものすごく嬉しそうな顔をしてヒヨリは語る。



「そういえば、湊君って歳はいくつなの?」

「この前誕生日を迎えたから、十七歳かな」

「えぇ!私も十七だよ。同い年だったなんて意外!」

 同い年だったのか。ちょっと子供っぽいところがあったから意外だな。


「そういえば、ヒヨリは普段なにしているんだ?」

「大家さんのお手伝いだよ。大家さん近くでレストラン経営しているからそこで働かせて貰っているの」

「そうなんだ。ご家族とかはどうしてるの?」

 ヒヨリは少しうつむいて黙り込む。


 悲しげな表情をするヒヨリ。この話はしないほうがいいな。ヒヨリは少し気遣ったのか、

「そ、そうだ……。精霊ちゃん達にもご飯あげないとね。ペティ、パティそれにクロウちゃんもちゃんと食べてね」

 ヒヨリは少し無理やりな作り笑いを見せながら精霊達にパンの切れ端をそれぞれ分け与える。



 食事を終え、一息つく。

「いろいろやってもらって悪いから、せめて洗い物は俺がやるよ」

「ごめん。ありがとう」

 俺は食器を持って流し台に行き、一つ一つ丁寧に濯いでいく。


 すると突然ヒヨリが立ち上がり、

「決めた! 私も騎士団の入団試験受ける!」

 と宣言し、こう続けた。

「私ね、ここでやりたいことがあまり見つからなくて、何かチャレンジしたくても勇気が出なくて、でも湊君見て私も頑張ってみようかなって思ったの」

「……そうか。一緒に合格しようぜ!」


彼女の過去にどんなことがあったのかは分からない。

だが一緒に受けてくれるのは心強い。彼女といると不思議と心が安らかになる。打ち解けられやすいというか、自分の心を素直に預けられる人だ。

「うん! 湊君も試験落ちないでね」

「もちろんだ。洗い物終わったし、そろそろ自分の部屋に戻るとするよ。今日はいろいろとありがとう。じゃあまた明日」

「また明日ね!」


 手を振るヒヨリと別れて俺は自分の部屋に戻る。明日の試験頑張るぞ! 

と自分を鼓舞して頬をたたく。そういえばヒヨリと明日何時に集合するか話し合ってなかったと気付き、俺は自分の部屋を出てヒヨリの部屋を三回ノックし、ドアを開けながら尋ねた。

「ヒヨリ明日何時にここを……」

「え……」


 目に映ったのは、今に下着を脱ごうとしていたヒヨリ。

「いやあああああああああ!」

「ご、ごめん」

 思わず凝視してしまったがこれはいけないと思い、目を反らす。


「出てって! 頼むから出てって! 明日は私が起こしに行くから、とりあえず部屋から出てって!」


「は、はい……了解しました。失礼します」


そう言って、すばやく部屋から出て勢いよくドアを閉める。

心の落ち着かなく、動きがぎこちないまま自分の部屋に戻り、ベッドに腰掛ける。

明日気まずいってもんじゃねぇぞ。今日はいろいろあって疲れた。シャワー浴びてもう寝よう。

シャワーを浴び、その足でそのままベッドで横になった。すでにクロウは枕の横で丸くなって寝ている。

俺も疲れていたせいかすぐに深い眠りについた。



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