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彩る君に恋をした。  作者: 椎名 椋鳥
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絵画の世界へ

頭がかち割れるほどの目覚まし時計の騒がしさ。その騒がしい物を止め、俺はおもむろに起き上がる。あれは夢だったのだろうか、夢にしては意識がはっきりしていた。


あそこはどこなのだろう。それにしてもあの子綺麗だった。


 俺、金指湊はいつも通りの時間に目を覚まし、いつも通り身支度をする。額に飾ってある『美術コンクール 金賞』と書かれた賞状や、ズラリと並んでいるトロフィーなんてのは過去の栄光であり今は絵なんて描いてない。


いつも通り、近くの神社にお参りをして学校へ行く。物心ついた時からこの神社『白造しろづくり神社』に毎朝参拝をする。これはもう俺のルーティンワークと言ってもいいだろう。


 学校に着き、開始チャイムと同時に先生が入って来た。


「今日の欠席は望月だけだな」


 俺は彼女を見たことはないが噂によると始業式前に交通事故に遭い、意識不明で今も目を覚まさないらしい。


 普通過ぎる日常、普通過ぎる光景、彩りなんて何もない。水彩画で例えるなら、筆に黒い絵の具を真っ黒な画用紙に塗っているだけ。他の色を使おうとしない、いや使えないだけなのか。この変わらない日常に何を塗ればいいのか、分からない。この無彩色な人生はもう手遅れだ。

 学校を終え、いつも通りの商店街を通り……って、あれ?


———こんなところに美術館なんてあったっけ?


 商店街の裏路に見えたのは小さな小さな美術館。

 その時、俺の背中を突き刺すような激しい風が吹く。行くしかない……。


 重い扉を押し開け、中に入ると美術館独特の高尚な空気が漂う。ただ絵画どころか美術品も一切ない。まだ開館してなかったのかと少し疑った。

「ようこそ」

 

突然の言葉にびっくりして振り返ってみると、男の人が立っていた。黒い髪に透き通った白い肌、真っ黒のネクタイとスーツ。二十代? いやそれより下か。高貴な青年が近づいてくる。

「こんにちは。あぁ、私は怪しい者ではありませんよ。この美術館の支配人です」

「支配人?」

「えぇ。ごゆっくり当美術館をご覧ください」

 支配人と名乗る男は、薄っすら笑みを浮かべながらこちらを見てくる。

 不気味。

 この人を表すぴったりの言葉。


「ここに作品は展示されてないのですか?」

 美術館と名乗っているのにもかかわらず、展示品が一つもないことはあり得ないだろう。

「奥に一枚ありますよ。ついてきてください」

 

一枚? それだけなのかと少し疑問を浮かべたがどうせなら観に行こうということで支配人についていくことにした。


「君は色の力を信じますか?」

「もちろんだ。これでも昔絵を描いていたんだからな」

「そうですか」

 

人は色によって生かされている。食事もファッションも彩りがあってこそ惹かれる。

一つ一つの色に意味がある。とある部屋に連れていかれると支配人の言った通り、一枚の大きな水彩画が目に入った。縦1メートル横2メートルほどの大きさだろうか。

「どうぞ、ごゆっくり」

 そう言って支配人はどこかへ行ってしまった。


「ゆっくりって、一枚だけしかな……」

 衝撃が走った。これまで見てきた歴史的に有名な絵画とは明らかに違う。


 そこに描かれているのは、燃えている緑色の屋根の城の中に一人膝をついて泣いている女の子の絵だった。

——この子は……夢で出てきた女の子。


「なんで? 意味がわからない。なんであの子は泣いているんだ?それにこの城は……」

 俺自身、こんなに悲惨な絵を見るのは初めてだ。あれこれ考えても分かり得ないこの絵の内容に口を開けて呆然としていた。


 その時だった。絵の額淵が少し光り始めた。その光が徐々目を細めるくらいに強くなり、薄暗かった部屋を照らし出す。

「なんだ、何が起こっているんだ?」

 光が俺の体を包みこんでゆく……。




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