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彩る君に恋をした。  作者: 椎名 椋鳥
18/31

海へ行こうよ!

昼下がりに目が覚め、俺はぼーっとしていた。

自分が力になれなかったこと、もっと強くならなきゃいけないと思ったこと、いろいろ考えていた。

自分は微力だということを改めて知った今回の件。そしてあの男が最後に言っていた言葉が引っかかる。

この世界に飛び込むことができる俺は何のためにこの世界に来たのか、前回は王国を救ったことで現実世界に戻ることができた。しかし、新しい絵が飾ってあり今回の問題の解決をする。そもそもあの絵は誰が描いたのか。見極める必要がある。


 コンコンコン。

 三回ノックする音が聞こえたので俺はドアをゆっくり引く。

「おはよう湊、海行くぞ!」

「メルか。おはよう。よっしゃ、いくか!」

「うん!」


 楽しそうなメルは恥ずかしそうにこう続けた。

「湊、その……手、繋いでいい?」

「俺の?」

「湊の手しかないだろ?」

「しょうがないな」

「へへっ」と照れ笑い。

 俺はメルの小さな右手をギュッと握り、メルも俺の手をに握りしめた。

年齢相応にちっちゃな手。この小さな手で幾多の試練を乗り越えてきた、俺よりもずっと厳しい環境で生活してきた手。胸にグッと込み上げてくるものがある。


「じゃあまずヒヨリを起こしに行こうか」

「そうだな!」

 俺の提案にメルは賛同しヒヨリの部屋に向かう。


メルがドアをノックするとしばらくして、扉が開く。

「おはようヒヨリ、海行くぞ!」

 メルの元気な声にヒヨリは

「おはよう、分かった準備してくるから待ってて」

 まだ寝ていたのか、ヒヨリは少し寝ぼけた声で返答していた。


「準備完了です!」

 右手を上げ敬礼。俺の顔を見てニンマリ笑う。

「なんだよ……」

「あれれぇ湊君? ロリコンに目覚めちゃったのかなぁ?」

 ハッと繋いでいる自分の左手を見て慌てて答える。

「ち、違うよこれは……」

「湊がどうしてもって言うから手を繋いでやってたんだぞ」

「おいメル、話が違うじゃないか!」

 声を荒げるもヒヨリのニンマリとした表情は変わらない。ごまかすように、

「あっ、そうだ。レオナ迎えに行かなきゃ、な?」


 ヒヨリのの背中を押して宿屋の廊下を歩かせようとすると、

「みなさん遅いですよ!」

 目の前に現れたのは真っ白なビキニを着た美少女、レオナだった。

 なんかすごいやる気満々になっているレオナさんは初めて見た。

「レオナ可愛い!」

「海に入るには水着が必要だと聞きまして近くのお店で借りてきましたの。湊君、私の水着……似合ってますか?」

 両手を胸の前で合わせながらもじもじするレオナ。

 水色の髪に合うのは淡い色、濃い色だと水着が主張しすぎて色彩のバランスが悪くなる。

その点レオナは自分を生かす色が分かっていらっしゃる。

色白であり尚且つなかなかスタイルの良いレオナの白ビキニはアリだと思う。

男性で人気なのは白のビキニだという俺の偏見も込み。

「に、似合ってるよ」

 そう言うとレオナはクスリと笑う。

 その様子を見てかヒヨリが顔を膨らませた。

「ヒヨリ、なに怒ってんだ?」

「べーつにぃー」


 レオナが水着を借りたお店に行き、俺たちも水着をレンタルする。

久しく海に入っておらず、なかなか楽しみな限りである。俺は藍色の無難な水着を着用。

「どおーー?」

 ヒヨリが着てきたのは黒のビキニ。彼女に合わぬシックな色合いはギャップがあって また良い。

「いいんじゃないかー」

「なにその感想……」

 棒読みで褒める俺にヒヨリはムッとした表情で睨みつける。

「ヒヨリはなんでも似合いますよ。黒なんて特に色合いはバッチしです!」

「レオナありがとうー。こんな分からず屋放っておきましょ」


 素直な感想を言うのは少し照れがあってできなかっただけだ。にしても二人ともスタイルが良い。ヒヨリの方が胸は少し大きい。二人を直視できないほど照れに入っている自分は初めてだ。あとはメルを待つだけ。

「できたぞー」

 メルはピンク色か。まぁなんとも子供らしいが似合っているよ。

「メルちゃん可愛いー!」

「へへっ。ヒヨリのアドバイスのおかげだぞ」

 メルは鼻をさすりながら照れ笑いをする。

「これはロリコンの湊君も黙っちゃいないよね?」

「だからロリコンじゃねぇって!」

「はいはい。じゃあビーチに向かってしゅっぱーつ!」

 ヒヨリのやつはホント人をおちょくるのが上手いというか。

全員水着を借りれたということで街外れにあるビーチに向かった。



 昼下がり、上は煌々と照らす太陽、下はその太陽の熱に暖められた砂浜で体が焼かれる。

事件を解決したということもあり、ビーチに来る観光客の数も自然と増えてきたらしい。

ビーチに着くとまず騒ぎ出すのはお馴染みのこの人。

「ヒャッホー! 海だー!」

 暑さ御構い無しに駆け出すヒヨリ。こいつの元気はどこから出てきているんだ……。走り回り、戻ってきたかと思ったらレオナとメルの手を引き海へといざなう。

「早く行こ行こ! 湊君も!」


 仕方なく俺は駆け足でヒヨリたちを追いかけると、くるぶしが浸かるくらいまで着水。

先ほどの砂浜の暑さとは真逆な染み渡る程の海水の冷たさ。足先から頭の先まで通り抜けるような感覚。

 ザバーンと水の弾ける音を立て、ヒヨリは海水に漬かるや否や思いっきり飛び込み引っ張られて入った二人はその巻き添いを受け、不本意に転がり込む。


「気持ちいい!」

「ヒヨリ、いきなり飛び込むのは体に悪いですよ。でも開放感があっていいですね」

 メルもレオナも初めての海でご満悦のようだ。かくいう俺はその三人のじゃれ合いを遠目で眺める保護者のよう。いや、眺めるだけも悪くないと心の底から思った。美女二人と幼女一人……楽園と言わずなんと申す! 砕けたみっともない顔で三人を眺めていたら、彼女たちはなにかナイショ話を始めた。お互い頷きあうと不気味な笑みを浮かべこちらに向かってくる。なんだ、なんだと思いながら待ち構えていると、

「そーれっ!」

 一同俺に向け水しぶきを浴びせてくる。

「ぶっ、何するんだ!」

「湊君がみっともない顔で見てるからだよ」

 すぐさま三人に向けて強烈な水しぶきを浴びせる。


 キャッキャウフフの理想的な展開。


 少しはしゃぎ過ぎたせいもあって、疲れたので浜辺で休憩することにした。

あれだけはしゃいだのにまだ元気なヒヨリとメル。

かのレオナさんはというと俺の隣に体操座りで座っている。俺同様、疲れたらしい。

「初めて泳ぎましたけど、なかなか疲れるものですね」

「まぁそうだな。にしてもヒヨリとメルは元気だな」

 本当の幼い子供のように後先考えず全力で今を遊ぶ。一人幼くないやつが混じっているが。

 ふとこちらを眺めるヒヨリ。

 上まぶたがいつもより開いていない虚ろで遠くを見るような目。

「ヒヨリ!」

 飛び込むメルと再びじゃれ合う。


 時は夕方に差し掛かる頃、さすがに疲れたのか、ヒヨリとメルも上がってきた。

 ヒヨリは疲れたメルを背負い、

「はしゃぎ過ぎたのか疲れて寝ちゃったみたい」

「俺が代わるよ」

「あ、ありがとう」


 メルを背負う役を買って出た。すやすやと眠るメルを背中に乗せ、宿に帰ることにした。

小学校であった体育のプール授業並みの体に起こる倦怠感。ついつい眠くなってしまうその後の授業。久しぶりのこの感覚に懐かしさを思い出しながら宿に戻るのであった。

 メルの海水を落とさせることをヒヨリに忠告し、俺も自分の部屋に戻り同様の行為を行う。


 着替えると体の疲労がピークに達し、ベッドに横たわるとすぐに目を閉じた。

 

 今回の事件はちゃんと解決したことになるだろうか。

 そもそもこちらの事件を俺に解決させて何の意味があるのだろう。

 この世界で海に入るなんて思いもしなかった。みんな楽しそうで良かった。


 でもヒヨリは……。


 あれこれ考えているうちに意識はどんどん深いところに消えていく。

 

 前回とおなじように。


 ぐっすりと深く……深く……。





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