清く、青く、艶やかに
聞こえたのはメルとレオナの声。
「ここは私の出番だぞ!」
「私も久々に戦いたくなってきました、メルちゃん協力してください。あの方はいけ好かないです」
待ってましたとばかりに声を張るメル。いつもより強い口調のレオナ。そういえば、あの二人の戦いは見たことなかった。
俺はまだ十分に動けないし何よりヒヨリが心配だ。ここは二人に任せるとしよう。
メルは千本針、そしてレオナは扇?
「なんだぁ? 僕に敵うはずないじゃないか。これは筋力の増幅と瞬発力の向上をさせる薬だ。たとえ君たちが精霊の力を使ったとしても僕の作ったこの薬には敵わないよ!」
そう言って男はメルに飛びかかる。
「遅いぞ!」
メルは男の背後に回ると手に持っている針を数本投げる。
ん? 全然方向が違う、壁に突き刺さって……
その後男の攻撃を軽々しくかわしながらも四方八方に針を投射。あんな無規律に投げてどうするつもりだ?
「どこ投げてるんんだいお嬢ちゃん。そんなノーコンで大丈夫かな〜」
その通りだぞメル、なんでそんなに余裕な顔をしていていいのか?
「準備できましたレオナ様、よろしくです」
レオナ?そういえばレオナはずっと目を瞑って集中している……。
「いきます!」
レオナは刮目、扇を振りかざしそして唱える。
「《水牢》」
男の足元からみるみる水が溢れ、全身を囲うように襲いかかる。
「な、なんだこれは」
そして男を水で包み込み、動きを封じてしまった。
「水の中に閉じ込めておきました。このまま窒息死させるのもありですけどね……」
怖いよレオナさん……にっこりしているけど目が笑ってない。
「あなたが私の大切な湊君とヒヨリを傷つけた、その代償は大きいですよ。メルちゃん、やってしまいなさい」
「了解ですレオナ様! 全方向からの電撃いくぞー、ドーン!」
電気が鳴り響くと共に悲痛な叫び声。
全方向? そうか、四方八方に針を仕込んだのはこの時のためだった。水の牢で男を中心に縛り、そこにメルの電撃を食らわせる、あいつら考えたな!
男はヘナヘナと倒れた。
レオナは俺とヒヨリの元へ駆け寄ってきて、
「大丈夫? 湊君はともかくヒヨリはどうなの?」
「俺はいいのか。ヒヨリは落ち着いたよ。今は眠ってる」
「そう、よかった」
安堵の息を漏らしたレオナは男の元へと駆け戻り、扇を顎に当てて上を向かせる。
「さぁ吐きなさい、あなたを命令した人の名を!」
男は意味ありげな笑いをしながらこう答える。
「あの方の情報は教えられない、でもまぁ少しくらいはいいかな。あのお方は絶大な力を持っている。あとは、そこのカラスの精霊を持つ男……ここまでにしておこうか」
俺が、なにかあるのか……。
「それだけ? 街はどうなるの?」
そう言った途端男の体がどんどん石になっていく。
「薬の副作用だ、このまま俺は死ぬだろう。街は俺が死ねば時期に戻る、じゃあな」
そう言い放って男の全身が砕け散った。最後は呆気なく自分が街に対してやったことと同じように。
この男の裏に大きな存在があるということは分かった。
「とりあえずみんな、ここから出よう」
地下から脱出する。ヒヨリは眠っているので俺が背負って。
地下を出ると水平線上に太陽が顔を出していた。
「もうそんな時間だったのですね」
レオナのその言葉に少し眠気を感じてしまう。朝が来ていたことをようやく実感した言葉だった。
「あれ見て!」
メルが指差すのは街の方向。そこに目を向けると驚くべき光景が広がっていた。
街から溢れ出るような光、星のように鮮やかに、朝日に照らされながら舞い上がる。きっと石化が解かれたのだろう。綺麗にもほどがある景色にしばらく見惚れていた。
「……湊君……ありがとう」
寝言かなにか、ヒヨリが俺の名前を囁く。
ったく、気持ちよさそうに。
「そろそろ街に戻りましょうか」
レオナの言葉通りアムージュの街に戻ることにした。
街の人々は、俺たちが問題を解決した、ということは知らないのだろうな。別に感謝されるためにやったわけではないし、まぁいいか。
アムージュに戻ると街が活気に溢れていた。
朝市や船の運航も再開、住人も普段の生活に戻ろうとしていた。
俺たちは宿屋に帰り、今度はちゃんと泊まるということを告げ部屋に向かった。ヒヨリをベッドに寝かせ、俺自身も部屋に戻りすぐさま横になる。
考えてみれば夜の間ずっと寝ていなかったから眠くなるのも当然だった。