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彩る君に恋をした。  作者: 椎名 椋鳥
12/31

余興

決戦当日。

朝から弱い雨が降り続いて、止む気配はない。

城の兵士と俺たちシュタイク騎士団は城の広場に集められた。

静寂に包まれる中、一同は整列し、ベランダに出てくる王の登場を待つ。緊張と覚悟の入り混じる中、自分の胸に手を当てゆっくり息を吐いて、気持ちの整理をする。


自分のやるべきこと、自分がこの世界に来て何か変わるのならば、そうであってほしい。心の準備はできている。

 

 これよりベルモント王によるスピーチが始まる。


「皆の者! 知っての通りこのあとベーレの軍勢がこの国を攻めてくる。正直、なぜ戦いを仕掛けてくるか意図が見えておらん。だが、愛する我がベルモントを、我が愛する国民を守る為、我々は立ち上がる。お前たちそれぞれの愛する家族、愛する者、愛する土地を守る為に戦うのだ!」


 王様の武器である鉄の棍を突き上げ掲げると、共に兵士たちは「おぉー!」と声を挙げる。熱気が凄い。

だいたいこういう時の王って貧弱だったりするのだけど、あの王様は兵の士気を上げるのが上手いと思う。


「よって、城下の外で我々は敵を迎え撃つ。わしが先陣を切る! 皆の者わしに続けぃ!」

 えぇ……王自ら戦場に赴くとはこれは有能。どこかの無双ゲームみたいになってきたのですけど。

一騎当千とかいう雑魚兵なぎ倒していくやつですね、分かります。


まぁレオナやアードラに聞く限り、王様は大変お強い方なので大丈夫なはず。

 昨日聞いた作戦はこうだ。

俺たちシュタイク騎士団は二部隊に分かれて、一つは王様の護衛、もう一つは相手国の王を裏手から周り、仕留める。騎士団の人数は三十人ほど。

精霊使いのアードラ率いる俺、ヒヨリ、メルそしてレオナが相手の王を仕留める部隊、ラモーナ率いる残りの団員は王の護衛という形に編成された。


「王様とラモーナ部隊はもう出撃しました。我々も急ぎましょう」

 アードラの言葉を静かに頷き、相手の城に向かって走りだす。少し遠回りの道だが前線から少し離れた道を通り、直接敵の本拠地へ殴り込む。今頃本隊は戦っているのかとも思いこちらも気が引き締まる。


休憩も少し取りつつ、二時間ほど走ると白い屋根の城が見えた。

 


 暗雲立ち込める中、堂々とそびえ立つベーレ城。

 いよいよ殴り込みに向かう。

「ここから先は敵が多いと見込まれます。注意して進みましょう」

 この言葉とは裏腹に、城の門まで兵が一人もいなかった。城の中に入っても敵の兵は二人いるかどうか。

警備が手薄すぎる。全兵士が前線に出ているのか? 

そのまま玉座の間にあっさりと侵入。部屋に入ると、玉座に女の人が堂々座っていた。

バックの鮮やかなステンドグラス。

ベルモントとは様式が違い、吹き抜けるような天井には煌びやかなシャンデリア、両脇には四本の赤い大きな柱といった華やかな造りでできている。


 張り詰めた空気、神経を尖らせ正面を見る。


 そしてレオナは指差し申す。

「あれがベーレ王国の女王クレリアです」

 あまりの堂々さ加減に立ち尽くす俺たちに対してクレリアは立ち上がりコツコツと履いているブーツと大理石の打ちづかる音、そして

「待っておりました、ベルモントの方々。

あなた方とお話ししたく、あえてほとんど城に兵を残しておきませんでした」

「話しがしたいとはどういうことですか?」

 レオナは問う。

「あら、これはこれはベルモントの姫、お久しゅうございますな。まぁ話しと言っても

『この戦いは単なる余興にすぎません』と宣言するだけなのですが。これから私は出撃した兵士達を引き上げさせる。とりあえず、戦いは終わりや」


 余興、引き上げ? 何を言っているんだこいつ。

ベルモントを滅ぼすつもりじゃなかったのか? それとも何か裏が……。

 その途端、アードラがクレリアへ切りかかろうと、剣を抜き、駆け上がる。

「レオナ様、この女王の言うこと、安易に信じてはなりません」


 クレリアを切ろうとするもアードラほどの強者の攻撃はあっさり避けられ、瞬間移動でもしたのか、俺のすぐ後ろに立っていた。

「ほう……あんたがねぇ。ええ男やけども……」

 ゾくっと背筋が凍る、奇妙な違和感に何も言葉が出なかった。

 

クレリアは再び俺たちの正面に立つ。

「本当やって。本来は攻め滅ぼすつもりやったんやが、状況が変わってしまったんや」

 話の意図が読めないまま相手のペースで進んでいく。

「ということや。じゃあ条約でも結んでおきますか?」

 紙にサラサラっとサインをし、レオナに渡す。

レオナも不可思議に思っているようだがこれで戦いが終わるなら、という思いもあり、サインをする。

「さーて兵を引き上げにいきますか。じゃっ、お疲れさまでしたー」

 クレリアの考えていることがイマイチよく分からない。

あっけらかんとしていたがハッと我に帰り、我々も直ぐ様王に報告せねばと、急ぎ足でベルモントへ帰った。


 前線で戦っている王のもとに駆けつける。敵兵はもう引き上げた後だった。

王に事情を説明、前線の兵を深追いさせることなく我々も引き上げ始めた。


 勝利、とは言えない。クレリアの言葉が少し気がかりだ。

余興、これからまた何か行動する、ということなのか? それに俺のことを知っているようだったがこの世界に来て間もないのでもちろん面識なんてあるはずが無い。自分の記憶の中にこの人がいるはずもない。

 しかしこれでこの国が救えたのならば俺の目標としても達成ということになるのだろう。


これで世界線が変わり、元の平和な王国になってくれれば良いが……。

 

 表向きには勝利と宣言される。

ベルモントに平和は戻り、ひとまずこの戦い収束に向かった。

王に玉座の間へ招かれる。何か記念のものを作りたいとのこと。ヒヨリが一つ提案をする。

「あっ、湊君って昔絵を描いていたんだよね?王様とレオナのツーショットを絵にしてみたらどうかな?」

マジかよ。中学生の時以来絵なんて描いてないぞ。

「おお、それはいい! 湊、描いてくれるな?」

 俺はしぶしぶ承諾。さすがに王様に迫られたら断れない。


 城の画材道具を貸してもらい、鉛筆で模写、久々に筆を執る。昔描いていた時のように手つきがスムーズ。ブランクなんてないのか、と自分で思うほどに。


「ヒヨリ、メル鬱陶しい……ちょっと離れてくれないかな?」

 描いているところをジロジロ見られるのは無性にむず痒い。

「えぇー湊君のケチ! メルちゃん行こっ!」

「ブーッ」

 ヒヨリとメルは顔を膨らませながらどこかへ行ってしまった。

 時間をたっぷり使って抜け目なく描く。


 完成。


——椅子に座る王、そこに寄り添うように立つレオナ

 我ながら自信作。ヒヨリたちにも褒めちぎられた。

王様にも大変喜んでもらい、廊下に飾ると言っていた。

こんなに人に喜んでもらえる絵を描いたのは初めてと言っていいほど。


 久々に絵を描いてみたが、こんなに絵を描くことって楽しかったのだな……。


 その夜、勝利を祝う宴が開かれる。俺、ヒヨリ、メル、レオナはお酒が飲めないので、ジュースで、アードラやラモーナは二十代後半なのでお酒で乾杯。酔い狂う王や兵士達。

ん、なんかヒヨリ酔ってないか?


「みーなとくん、ウェーイ!」

「お、おい来るな! 離れろ! お前酔ってるだろ!」

 抱きつこうとするヒヨリの頭を左腕で止める。

「酔ってるのかな〜? 雰囲気だよ雰囲気。ほら、食べさせてあげるからアーンして」


 なんだよこのだる絡み。そういうことしないでください。

「ヒヨリも嬉しいのですよ。またこうして平穏な生活が送れることに」

「レオナも笑ってないで引き離してくれよ!」

 ヒヨリが発破をかけさらに、

「レオナももっと近づいて来ちゃいなよ〜」

 だから、何を言っているんだヒヨリ。レオナがそんなことするわけ……

「じゃあ私も少し近づいてみますわ」

 お尻をずらし、体を寄せてくる。来たあああ。えええ?

「お前たちずるいぞ。私もだ!」

「メルも来なくていいから!」

……やめてぇ……。

 


 あの状況から抜け出したく、もう黙って部屋に戻ることにした。

 楽しかった。平凡な高校生活では味わうことのできない出来事の数々。

仲間との和気藹々とした雰囲気。

この短い間ながら密度の濃い時間だった。

絵を描いてきただけの自分の過去にはない豊かな世界。

あんな日々がいつまでも続くといいのに、そう思いながら部屋に着いた途端、ベッドに倒れこみ両瞼が自然と閉じてしまった。


 ゆっくりと俺の意識は喪失していった。



 ぐっすりと深く深く…。



 眩しいくらいの光が目に差し込む。

 ……朝か……。


 あれ、寝ていたベッドじゃない。

 ただ頭が半分寝ている。


 しばらくしてだんだん意識がはっきりしてきた。

辺りを半目で見回すと、馴染みのある風景。いつもの頭がかち割れるほどうるさい目覚まし時計、そしてなぜか高校の制服。



——元の世界にある自分の部屋に戻っていた……。




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