小学生潜入捜査
1章 撮影現場
2章 夏合宿の攻防
3章 社会見学?
4章 アイドル影武者
5章 補習
6章 高校潜入
7章 恋泥棒
1章 撮影現場
1 面接
「はい。じゃあ、君たち、ここで少し待っていてね」
エアコンの効いた豪華な応接室で、私たち3人は、今そう言い
残して出て行く男の後ろ姿を追いながら、完全に居なくなった
のを確認して、しゃべり始めた。
「なんか、もっと悪人顔って思ってたのに。いい人かもよ」
サトル君が言った言葉に、いつものごとくワタシは瞬時に反応し
「何言ってんの。悪人が悪人顔するわけないでしょう。馬鹿ね」
「でも、あの人タイプかも」
ユカちゃんがいつものごとく、締めに、ボケをかましてくれる。
「お前、あんなのがタイプなのか。ストライクゾーン広いよな」
そう言ったサトル君に対して
「本当は、サトルくんの方がずっとタイプだけどね」
こいつはキャバ嬢か。誰にでも媚びるのか。
田舎から初めての都会のキャバクラに来たオヤジのように、
鼻の下が伸びたサトル君の太ももを撫でながら、ユカちゃん
のビジネス男好き言葉だ。
「いや。ユカちゃん。僕たちは小学生だから」
そのサトル君の言葉をさえぎるように
「小学生だから何? 体は大人でしょう。お互いに」
何をお前ら、馬鹿の程度にも程がある。何でこんな奴らと
一緒にいるのか、ワタシは自分が情けない。
「2人とも、ワタシたちは何しにここに来たのか分かってるの」
少し怒り口調でワタシが言った。
「わかってるよ。小学生被害者が出ている児童ポルノの撮影部
隊の事務所じゃないかって、その証拠をつかむために来たって」
いつもバカで尻軽な振りをしているユカちゃんが真面目に答えた。
「ああ、別のクラスの女の子2人が、もしかしたら、今、危険な
目に会っているのかもしれないから、早く見つけ出すためにも」
いつもバカでお調子者のサトル君が、本気モードに入っている。
「そう、じゃあ、とにかく撮影現場の情報を、どんな小さな事
でもいいから、皆で集めるの。そのための時間とタイミングを
何とか稼ぎ出していく。撮影現場でも情報が取れるまでは、撮影
ギリギリまでは引き伸ばしていく。それでいい」
ワタシも本気モードに入った。
2人は静かに大きくうなづいた。
2 撮影前
先ほど出ていった男と一緒に、スタッフらしい女性が入って来た。
「じゃあ、衣装を用意している部屋があるから、そこに案内する
ね。男の子は、レディの着替える部屋に入るのは失礼だから、ここ
で君だけ待っていてね」
ああ、3人一緒なら心強いと思っていたけど、どうしょう。
「あの、この子、実は女の子なんです」
突然ユカちゃんが言った。
「男の子にしか見えないけどな」といぶかる男に対して
「いつもそう言われるんですけど、ちょっと化粧したらスゴイ
です」とユカちゃんがまったく根拠のないウソをかました。
「まあ、男でも女でも、衣装つけて、さまになればOKだから」
スタッフらしい女性が話をおさめてくれた。
「それじゃ、3人とも一緒について来て」
男とはそこで別れ、女性について私たち3人はビルの地下
駐車場へ向かった。
女性が運転する大型の黒のワゴン車に、私たち3人は乗り込
んで、さっきの事務所から15分位にあるラブホテル街のある
ホテルに到着した。
「ここが、衣装合わせと、撮影現場」女性が言った。
私たち3人とも声が出なかった。と思ったら、2人はスヤスヤ
と気持ち良さげに寝ていた。
「2人を起こしてあげて」
なんとまあ、こいつら2人、肝が据わっているというか、鈍感
というのか、私も張り詰めていた緊張感が飛んでしまった。
「いやー、興奮するよな」
遠足にきた小学生のように、はしゃいだ様子のサトル君。
豪華絢爛で、熱帯の植物園のようなホテルのロビーに目を奪
われながら、ここはダンスパーティやスケッチ大会をしに
来る場所じゃないだろう。何を興奮するんだ。
「私も何だか。お腹の下の方が火照ってきた感じ」
ユカちゃん、やめて、馬鹿に付き合うのは。
「ここの部屋が、衣装合わと化粧直しの部屋」
女性がそう言ってドアを開けると、パイプハンガーが10本
程、所狭しと、衣装、水着や下着が並べられていた。
「私、化粧やっていいですか。他の2人の分もやりますよ」
ユカちゃんが本当にお気楽そうな感じで言った。
「いいわよ。やってみて。最初は、自分たちで出来る事は
何でもやってみて。撮影開始予定は、あと3時間位あるか
ら、あと2時間位は自由にやっていていいから」
「あの、私たち意外にも撮影の予定ってここであるんですか」
ユカちゃん、ベストクエスチョン。
「私が関わっている衣装の他に、違う衣装さんが来ているっ
っていうのは聞いたけど。どこかは知らない。ただ、あなた
たちが他のモデルの子と顔を合わせる事はないと思うよ」
「モデルだって」
サトルくんが、モデルという言葉にニタついて言った。
「化粧でスゴイ変身してくれるのを楽しみにしてるから」
女性は、サトルくんとユカちゃんを交互に見ながら言うと
自分の時間が急にできたのが嬉しそうな感じで、部屋を
出て行った。タバコを吸いに行ったようだった。
ドアが閉まり切る直前に、サトルくんが隙間に室内履き
用のスリッパを、かませ物としてねじ込んだ。
後で聞いたが、一度閉まってしまうと、中からは開けられ
ないようにラブホテルではなっているらしい。なぜ、この
人はこんな知恵が働くのだろうと関心する。
3 化粧と衣装合わせ
「ここで、別の子たちの撮影もあるっていうのが分かった
から、その子たちの状況を確認するのを最優先にしましょ
う。それでいい? だけど、3人ともいなくなっちゃうと、
誰かこの部屋に入っきたらバレちゃんから、交代で1人が
残る。もし誰か来たらあとの2人はお風呂に入っているっ
て事にする」
そう説明した私の作戦プランに、ユカちゃんが
「待って。最優先するのは分かるんだけど。今の私たちの
格好じゃ、部屋の外で誰かに会った時に言い訳ができない
でしょう。だから、探しに行く前に、化粧と衣装合わせを
やった方がいいと思う」
なんて、この子は天才なんだ。イヤ、知能犯だ。
「じゃあ、僕が探しに行けばいいんだろう」
サトルくんのイマイチな言葉を無駄にしないで済むように
「サトル君を一番最初にお化粧をして衣装を選んであげる」
言うが早いか、ユカちゃんがサトルくんを裸にし始めた。
「抵抗は無意味だ」
機械音声のような口調で、ユカちゃんがサトルくんに言った。
「それ、ボーグ集合体の同化に抵抗する際の警告メッセージ」
「お前たちは同化される」
また機械音声のような口調のユカちゃんのセリフ。
2人で笑い転げながら、素っ裸にはされていた。
こんな時に、なんでそんな話で盛り上がれるのか。
しかし、ユカちゃんのお点前には関心する。
サトルくんにインナーを着け、ウイッグを選び、化粧はもう
出来上がりそうである。
「リノちゃん。衣装選んでくれない」
ワタシのセンスで選ぶのは自信がないんだけど。
「リノちゃんが絶対に着ないというのを選んでみて」
ワタシのセンスと自信の無さをこの子は読み切っているのか。
「それ、いいよ。いい感じだよ」
ユカちゃんの言葉に、ちょっとだけ気を良くしていたら
彼女のマジックに本当にびっくりした。
「え。これがサトルくん。うそでしょう」
ワタシの前には、セブンティーンのモデルのような
ワタシがポーツとなるような可愛い女の子がいた。
その出来上がったばかりの「女の子」に、ユカちゃん
は、早速、当たり前のようにポージングと歩き方と腰
の曲げ方、半身の見せ方を教え込んでいる。
「女の子」の方も当たり前のように、それを瞬時に
飲み込んでマスターしている。化物の2人だ。
「じゃあ。次はリノちゃんで、最後が私ね」
「お任せします」
ワタシには2人のような瞬間的適応力は絶対にない。
「お任せされます」
「わかったよ。もうひとつの衣装部屋が」
ワタシがインナーを着け、お化粧をしてもらっている
最中に、サトルくんが興奮した口調で言った。
「連絡が取れなくなっている女の子たちの携帯のGPS
の移動軌跡では、このホテルの場所には今はいないよ
うになっているけど、僕の感では、携帯だけを誰かが
このホテルからどこかのコインロッカーか何かに持ち
運んで、このホテルの場所が特定されないようにした
んだと思う。GPSの記録で、このホテルを動いたのが
今から30分前だから、衣装合わせは30分以上前に終
わって、今撮影中に違いないよ」
「GPSの件は、事前に情報検索権限をもらっておいた
から、間違いないよね」
ユカちゃん、あなた何者?
4 捜索(に続く)