7.トキ
話しはキツネびとのムラに遡る。
「恐るべき術だ、イリヤがやられた。あの呪いをはね返されたに違いない」
「そんな事が時代遅れの縄文巫女にできるのか、信じられん……」
キツネびとのオサとその弟「土鬼」は顔を見合わせた。そこに一人の巫女が現れた。キツネの木彫り面を外すと新しい巫女「ホノ」が静かに現れた。
「イリヤ様に術を返したのは、カヤではないでしょう。偉大な縄文巫女として名も知れ渡る「オオヒメトヨ」に違いありません。きっと「タマハラ」をつかったのでしょう。「オオヒメトヨ」は既に引退したと聞きますが、こんな奥義をまだ使えるとは、縄文巫女とてけっして侮れませぬぞ……」
「トキ、縄文巫女の呪術を伝えられる前に、カヤを奪ってこい」
「兄者は?」
「お前がカヤを連れて戻ったらすぐ出発できるように軍勢の用意をしておく。もう作物の採り入れ前だ、奴婢も女どももオグニから根こそぎ奪ってやるわ!」
「よし、明日の朝、ムラを出よう。精鋭だけで十分だ、戦い慣れている俺の兵士を集めておこう」
トキはそういうと、床から立ち上がった。
奥の部屋に戻ると、トキは皮の面を取った。頬には大きなやけどがある、それはカヤの故郷のムラで受けた傷だ。カヤを手に入れるためにカヤの両親共々ムラごと焼き尽くした時のものだ。
「わしがせっかく手に入れたカヤを兄者はあれっぽっちの翡翠で「オグニ」に渡してしまった。カヤはわしの女にするつもりだったのに」
静かに戸が開いた、ホノが入ってきた。今夜最後の施術がトキに行われた。
「必ず仕留めるのだぞ」
トキの片腕の青い仮面の男が、黙って頷き木立に消えた。手慣れた精鋭を連れたトキが「オグニ」を目指して進み始めた。風のように速い。翌日の昼には「タジリ峠」から「オグニ」のムラの煮炊きの煙が見えた。その頃キツネびとの神殿では、ホノが戦勝を願い、巫女舞いを行っていた。舞いを終えたばかりのホノが、オサに気付いた。
「これは、オサ様、たった今舞いが終わったところです。こちらから伺うところでしたのに」
「いや、ここでいい。で、どうじゃトキは?」
「はい、昨夜最後の術を行いました。オサ様と、瓜二つ。もはや見分けがつきません」
「そうかそっくりか、ならばうまくいく……」
カヤのムラを襲った際、落ちた屋根と柱に挟まれ虫の息だったトキを見た時、オサはこの計画を立てた。略奪と殺戮の毎日の中、ホノを手に入れ、少しずつオサは考え始めていた。この村を捨てるつもりだったのだ。
「カヤの事などどうでもいい、わしはカヤを取り返しにきた縄文人に殺される、そしてホノお前とともにこのムラを逃げ出すのだ」
「なんともったいないお言葉。オサ様、ホノは幸せな女でございます」
オサはその美しい巫女をそっと抱き寄せた。
「許せよ、トキ」