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縄文の赤とんぼ  作者: 黒瀬新吉
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6.さらわれた巫女

「ニツ、ニツ私のために……」

次第にカヤの声が遠くなっていった。

(やじりに毒が塗られていたようだ……マナ、済まない、オオヒメを守れなかった……)

ニツは両膝を折り、うつ伏せに倒れた。


「カヤを捉えろ、兵士もかなり殺された。この人数では女どもは足手まといだ、ひとまとめにしておけ、後から来る男たちに連れてこらせろ」

目的を達したキツネびとの男はニツを蹴り転がした。

「ヒグマも殺す猛毒だ、とどめは必要ない。それより、イリヤの呪いを祓った縄文巫女がこのムラにいるはずだが………」

面を着けた男が、耳打ちした。

「そうか、やはり力つきたか。しかし、たいした巫女だ。あれが「オオヒメサヤ」の血を引くトヨだったのか。イリヤほどの巫女が失敗するのも仕方ない……」

カヤを縛り上げ、輿に押し込めると十人ほどの担ぎ手を残し、オグニの兵士は残らず焼け残った神殿に押し込められた。その中にはムラのオサもいた。神殿の回りにぐるりと薪を積み、それに火をつけると今度は女たちを集めたニツの屋敷を数人の兵士に見張らせ、キツネびとはオグニを出た。やがて黒い煙が「タジロの峠」からも見えた、輿の上のカヤはマナの無事を祈っていた。


ニツは信じられない事に息を吹返した。

「すぐ戻ってくる、オオヒメカヤを守りにいってくる」

うわごととともに、ぼんやりと意識も戻ってきた。大弓勝負で砕けた髪飾りが首飾りの紐に当たり切れやすくなっていたのが幸いした。


振り向いた拍子にそれが切れて丁度、勾玉の穴に毒矢のやじりが突き刺さったのだ。ほんの数滴、身体に入り込んでしまった毒でニツは気を失ってしまった。異変に気付いたニツは片目だけをそっと開けて周りをうかがった。神殿の回りに積み上げられた薪、それに火をつけて笑っているキツネ面の男たちが五人。ニツはとっさに思った。

「あの中にムラのものが閉じ込められている、いま焼き殺されようとしている」

ニツが起きるとその男たちは、次々とニツの矢に額を打ち抜かれた。


「薪はそのまま燃やしておけ、消せば異変に気付きヤツらが戻ってくるかも知れぬ」

オサは煙る薪を一カ所に集めた。

「ニツ行け、女たちはお前の屋敷に閉じ込められている。」

「オオヒメカヤは?」

「奴らに奪われた、殺しはしないだろうが」

ニツはオニの形相で屋敷に向かった。


「おい、酒はないのかっ」

キツネびとの男が震えている女たちに怒鳴る。矛を抜き女を丸裸にして気の早い「品定め」をしている男もいた。

「ほどほどにしておけ、オサがちゃんと決めてくれる、お前、名は何という?」

「マナ」

「ほう、マナというのか、こんな縄文人のムラにも美しい娘はいるものだな。さぞかし注ぐ酒もうまいだろう」

屋敷に上がり込んだ男たちは、椀を奪うように酒を飲んだ。縄文人も酒に強いが、キツネびとはさらに強い、しまいには樽ごと運ばせて、直に椀ですくって飲みだした。

酔いが回り、男たちは女に次々と襲いかかった。マナも例外ではない、名を聞いた男がマナの単衣(ひとえ)に手をかけた。

「ガダダッ」

入口の戸が蹴破られ、それに驚き振り向いた男たちの仮面が次々に射抜かれた。

「ニツ……」

はらりと脱げた単衣に気付きもせず、マナはニツの胸に飛び込んでいった。

「マナ、大丈夫か」

うなずくマナを見たニツはその場に力なく倒れた。矢に塗られた毒は完全に抜けていなかった。マナが揺り動かそうともニツは目を覚まさなかった。

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