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縄文の赤とんぼ  作者: 黒瀬新吉
5/16

5.大弓勝負

「キツネびとめ、イクサをするつもりか!」

キツネびとのイクサはムラごと焼き払う。男は皆殺しだ、容赦はしない。しかも毒矢を使う、矛の戦いではないのだ。ムラの男たちの死体もあちこちに転がっていた。

「急がねば、神殿が焼かれる……」

神殿の前に数人の男が立ち、飛んでくる火矢をなぎ払っていた。その矢に紛れ、明らかに音の違う、大弓から放たれた矢がある。

「うっ」

神殿の前の男が射抜かれた。ニツが神殿の前に立ちその矢を放った男を見た。

「あの男だ」

見覚えのあるカンバの飾りが大弓の先で揺れた。ニツは大弓を横一文字に高く上げた。

「おお!」

男はその誘いに乗った。

「おお!」


大弓の勝負は、挑まれたものから矢を放つ。それを確認してから挑戦者は矢を放たねばならない。腕に自信のあるもの同士しか大弓勝負は行われないのだ。満月のごとく双方の大弓は引かれた。眉間を狙って互いの矢が飛び交った。ニツの髪留めが砕け散った。次の瞬間、鹿革の面ごと眉間を射抜かれた男は仰向けに倒れて絶命した。

キツネびとがそれを見て、一旦神殿の前から引いた。

「この大弓を引けるとは、どんな男だ」

男の面を外すと、ニツに似た若い男だった。

ニツは男の手から大弓を外すとそれを膝でへし折った。

「この弓はすでにお前のものだ」

男の矢壺を拾い上げると神殿を狙って樹に上っているキツネびとの男を続けて射落とした、それでも火矢はまだ止まらなかった。男の矢壺が空になり、ようやく最期のひとりが地面に落ちた。見ると数本の火矢が柱に刺さり、風に煽られて屋根を焦がし始めている。煙が神殿に吸い込まれていった。


「早くカヤを連れ出さねば」

ニツは神殿に駆け出した。オオヒメカヤがよろめきながら柱を伝って表に出てきた。ニツは慣れた手つきで自分の矢を弓につがえると次々と空に放った。風を切る時に独特のかん高い音の出るニツの笛矢だ。キツネびとはニツが大弓を持ち、現れた事を知ると、恐れおののきたちまち逃げ去った。


ニツはその場のキツネびとが一目散に逃げ去っていくのを見て、カヤに駆け寄った。

「オオヒメカヤ、無事か?」

その時、木陰に隠れていた射手がカヤを狙って矢を飛ばした。ニツはその音を聞き逃さなかった。

(もう、なぎ祓う時間はない……)

ニツは振り向くと左右の腕をいっぱいに伸ばした。ニツの右の肩に衝撃が走った。


キツネびとの狙いは最初から大弓の名手「ニツ」だった。


「いいか、カヤを狙え、必ずニツは身を呈してカヤを守る。あの男さえ倒せば、オグニなどいつでもつぶせる。必ずあのいまいましいカヤをここへ連れてくるのだ」

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