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縄文の赤とんぼ  作者: 黒瀬新吉
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4.イクサ

「これが、私たち北の部族の巫女像です。ニツあなたの腕ほどの長さものが、作れますか?」

岩と化した黒色粘土岩を砕き、再び粘土に()ねるのにはかなり力を使う、不揃いな粒があると焼いた後で割れてしまうのだ。捏ねる度に粒が揃っていく、体力と根気のいる作業だ。何かに憑かれたような,ニツの目前では土偶の形が少しずつ出来上がっていった。土台から乾かしていき次第に上部を作ったもの、半乾きのまま、内部を木の

「さじ」で少しずつえぐりとっていったもの、焼きムラがないように粘土の厚さを薄く均一にし、所々に穴をあけたものなど試して、ニツは手がけた事のない大きさの土偶を五体作って焼いた。そのうち二体だけ割れなかった。出来上がった土偶にはカヤが見せた土偶とは違い、縄文巫女の衣装を着せている。カヤはもう一つニツに頼んでいた。マナの手を模して「神の手」を作ることだ。ニツは仕上がった土偶と「神の手」をさっそく神殿に届けた。カヤは二体の土偶と「神の手」を受け取ると神殿の奥に消えた。やがて二つの土偶がニツに手渡された。

「ニツ、この中にあの「神の手」を封じています。もしもの時、きっとマナを守ってくれるでしょう」

巫女の土偶を受け取る時、中から乾いた音がニツの耳に響いた。


カヤにかけた呪いを返され、イリヤを失った「キツネびと」はますます「オグニ」を恨んだ。二番巫女「ホノ」を立てると、すぐに「イクサ」の準備を始めた。


一本のかん高い音の笛矢が、オグニの長い平和に終わりを告げた。キツネびとが突如ムラを攻めたのだった。


「バキッ」

ニツは見張りから屋敷に届いた、見馴れぬ矢をなんなくへし折った。おババは「タマハラ」の後、眠るような顔でこの世を去り、マナはその後ニツの屋敷に引き取られていた。

ようやく放った矢の曲がり癖を身体で覚えたその大弓を握るとニツが立ち上がった。その岩の様な手に、美しく成長したマナが白い手をそっとのせた。

「ここにいろ、オオヒメを守リに行く」

マナは笑顔で彼を送った。

「どうかご無事で、ニツ」

「ああ、わしらの武神に祈っていてくれ」

ニツにはキツネびとの狙いはわかっていた。

(オオヒメカヤを連れ去るつもりだな、まさか殺すつもりではないだろう)

ニツは神殿を目指して一直線に駆けた。


「オオヒメを守るか、俺は嘘つきだな」

駆けながら苦笑いをした。カヤにもしものことがあれば、オグニの巫女は二番巫女のマナが引き継ぐことになっている。そのためにマナはいる。しかし、ニツは既にマナと契りを交わしていた。縄文巫女は処女でなくとも構わない。しかし召し出されると同時に、夫とは絶縁しなければならない。そしてその後、巫女に子が産まれた時、男であれば凶事とされ母子は即座に殺される。女の場合は巫女として育てられるのだ。ニツはオオヒメを守ることで、マナと少しでも長く暮らしていたかった。


ふと見ると側の草むらに兵士がうつぶせに転がっていた。ニツが通り過ぎると音もなく起き上がり、いきなり後ろから矛で斬りつけた。鹿革の面をかぶったキツネびとの男だ。しかしニツは慌てず振り向き様に、男をひと突きで突き崩した。

「何故わかった」

「縄文人は敵を倒したなら、必ず仰向けにしてとどめを刺す、こうやってな」

ニツの矛が、男の胸に深く刺さった。


「イクサ」といっても、後の時代とは随分違う。縄文人は狩猟と採集が主だ、そう言うと気ままなようだが。悪く言えばその日暮らし、それに蓄えも多くはない。守る財産はない代わりにそれを狙った争いもほとんどない。ただひとつ、村人が減ると冬前の熊狩りができないので、他のムラから時々女を奪ってくるのが兵士たちの仕事だ。兵士といっても、火矢を飛ばすものと、組み付いて殴り合い、相手と命のやり取りするものを合わせても、ほんの数十名だ。敵に負けた時には、負けたムラは未婚の娘を差し出す。夫婦を分けることは攻め勝ったムラにもやがて災難を呼ぶとされた。勝った場合は負けたその兵士たちは奴婢となり、後日兵士の数の倍の娘と交換される。奴婢となった兵士たちが、その後ムラの娘と夫婦になればムラの構成員として加えられる。それが縄文人たちの戦いだ。

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