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縄文の赤とんぼ  作者: 黒瀬新吉
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3.イリヤの呪い

「カヤ」は優れた巫女であった、その後も呪術は功をおさめ、すこぶる健康でさらに三年が過ぎた。いまでは「カヤ」が健在な事で「オグニ」が安泰だと人々が思うようになっていた。「イクサ」も全く無くなった、「オグニ」の巫女は本当の神の言葉を聞けるのだと、貢ぎ物を届けてその見返りに祈祷を願う縄文人が東北一帯に現れ始めてきた。家族ごとオグニに移り住むもの、神託を請うため他の縄文ムラのオサさえ現れるようにもなり、にぎやかでそして平和な日が続いていた。面白くないのが「キツネびと」のムラだ。めっきり新しい巫女が売れなくなってきた。そしてついに「オグニ」をつぶそうと画策した。

「イリヤを呼べ」

キツネびとのオサが言い放った。

「キツネびと」のムラには「イリヤ」という稀代の巫女がいた。「イリヤ」は「キツネびと」に伝わるすべての呪術を伝えられていた最高の巫女だ。「イリヤ」はその夜からオグニの「カヤ」に向けて呪いの術をかけた。


「これは、呪いの術。しかも恐ろしく邪悪で強大なものだ、果たして祓えるか……」

高熱に倒れたカヤを前にし「オオヒメトヨ」として、再びおババは縄文巫女の衣装をまとった。この術を払う巫女の舞いには巫女が二人必要だ、術を抜き飛ばすには「タマフリ」と「タマヨセ」そして「タマハラ(術飛ばし)」が必要でその間「オオヒメトヨ」を守る巫女がもう一人必要なのだ。その時、真新しい縄文巫女の衣装を着た「マナ」が神殿に現れた。顔は面を着けているため誰にも知れなかった。おババは巫女舞いをするときには、他のムラから巫女を呼んでいたので誰もそれがあの「マナ」だとは気付かなかった。


カヤを殺そうとした「イリヤ」は縄文巫女の「タマハラ」により、逆に命を落とした。カヤはかろうじて二人に救われたのだ。マナは巫女として成長を遂げていた。それは紛れも無く縄文巫女の呪力だった。


「このままで済むとは思えない……」

イリヤの恐ろしい呪力から救われたカヤはその時、マナが縄文巫女として目覚めたことを感じ取った。そして妹の身を安じ、ニツをすぐ神殿に呼んだ。


「なんと、見たこともない土偶だ」

土偶は今までニツが見なれたものとは異なり、巫女を巧くかたどっていた。巫女の顔は誰も見てはならない、顔はすっぽりと覆われている。両腕は常に上着の下にある。巫女の胸に宿ると信じられていた太陽に、いつも清められていた。その腕をいっぱいに広げるときだけ神の声を聞けるのだ。その神託の所作を土偶で表現する事ができている。土偶はムラでは「映し巫女」とも呼び、巫女が変わる度に新しいものが作られ、ムラの要所に祀られた。もし巫女が術に失敗したら、その巫女は殺される。その際には土偶の脚や首などを壊す。巫女の魂がムラに戻ってきて祟るのを避けるためだ、ムラではそう信じられていた。その作り手でもある男が、オサのお気に入りのニツだった。


「縄文土器」は低温で焼くために、壊れやすい。絶えず新しい物が作られていく。その合間にひとつづつ土偶は作られる。自立させるために脚を誇張し太くし、割れを防ぐために中空にしたり、何カ所か穴もあけねばならない。それ以外の決まりはない、巫女に人格はなく、そのため顔も作られない。普通、縄文巫女の土偶は上着と袴さえあれば後は必要ないのだ。カヤが見せた様な精巧なものは今までの巫女土偶には必要ないのだ。

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