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縄文の赤とんぼ  作者: 黒瀬新吉
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2.オオヒメトヨ

 「おやまあ今度は二人かい。こっちの娘は、なんだか弱そうだな、ニツ」

おババは、オグニの最後の縄文巫女だった。今は、「キツネびと」のムラから呼び寄せた巫女の身の回りの世話をしている。


「サヤ様の術を扱える巫女はもう二度と現れないかもしれぬ。これも仕方のないことじゃ、知っていることとできることは、同じではないからのう……」

縄文巫女の筆頭「オオヒメサヤ」の血を受けつぎ「オオヒメトヨ」として長年呪術を行ってきた神殿を、おババはさっさとその新しい巫女「カヤ」に引き渡した。「マナ」はとりあえずおババの屋敷に預けられた。


 「おやまあ、マナは何と覚えの良い娘だね。オグニの言葉も既に覚えてしまった。それにカヤよりもさらに色の白いこと。きっとシロジカかシロテンの生まれ変わりだろうね」

おババは縄文巫女の呪術をこっそりマナに伝えていたのである、キツネびとが言ったのはほとんどが嘘で、何一つ巫女の修行をマナに教えてはいなかった。ただ素質があると言ったことだけは本当で驚くほど物覚えもよく、縄文巫女の奥義「タマフリ」「タマヨセ」もおババよりも巧みだった。「タマヨセ」とは先祖の神をこの地に呼ぶための術で、その寄り代となる者の魂をその間、身体から抜き去る術を「タマフリ」という。この二つを使いこなすことで縄文巫女は神託を受けるのだ。「キツネびと」は巫女自身が寄り代となるが、「縄文巫女」は寄り代を選べる。例えば、獣狩りの前に山の神を猟師自身に「タマヨセ」をすることができる。ただ「アマゴ (雨乞い)」や「アマハラ(雨払い)」「シズメ(地鎮)」の術などは苦手だ。このころ定住を始めた縄文人にとって、天候がなによりも大切になってきた、それに長けていた「キツネびと」の巫女が次第に重宝され始めたのである。


 「これも仕方のないことだねぇ……」


 おババは「マナ」に縄文巫女の術を全て伝授しようとしていた。それは二人の他に誰一人知らなかった。マナの深い青い目の奥に「オオヒメトヨ」は縄文鬼巫女「オオヒメサヤ」の姿を見つけたのかもしれない。


 オグニの新しい巫女となったカヤは干ばつの際には「アマゴ」を行い、長雨の時には「アマハラ」を用いた。それは歴代の巫女よりも格段に強力で早い効果をオグニにもたらし、カヤが巫女となって、既に二年の月日が経とうとしていた。

「オグニの巫女は太陽と雨雲を自在にあやつる」

その噂はやがて東北の縄文人の集落にことごとく知れ渡った。やがてムラでは「カヤ」に縄文巫女の最高位「オオヒメ」が送られ、「オオヒメカヤ」と呼ばれるようになった。


 一方キツネびとは、そんなカヤの噂を聞く度に悔しがった。カヤを手放したとたん、筆頭巫女「イリヤ」の力にもかげりが見え始めていたのだ。そしてキツネびとはこう思い始めた。

 「カヤはオグニにはもったいない巫女だ、それに元々は大陸の娘だ、縄文人の巫女ではない」

キツネびとは図々しく、別の巫女に翡翠まで持たせ、巫女同士の交換交渉にムラまで来たこともあった。ニツはその一行を護衛してきた兵士が持っていた「大弓」がその時目に入った。

「ええい、未練がましい」

川向こうまで渡ったヘラジカをも、射抜ける大弓のことをニツは片時も忘れることはなかった。ただ決してそれはあの時マナと大弓を交換したことを、後悔しているのではない。


「いつか、あの大弓を引く男と弓の勝負をしてみたい……」

ニツは、縄文人の血が「ふつふつ」と沸きあがっていくのを感じた。

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