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縄文の赤とんぼ  作者: 黒瀬新吉
12/16

12.オオカミ族

その男は、薬草売りだった。オグニにふらりと現れた。オグニまでの途中のムラでも薬草を調合し、寝たきりの年寄りをもう何人も起き上がらせていると言う。それだけではない、薄く赤い土器をたちどころに作る。見事という他はない。素性は不明だが、北の部族らしく奇妙な首飾りをしている。男は「ヤス(夜須)」と名乗った。


「この土器は、火にかけても丈夫だ、それになにより作りやすい」

ニツは感心して、その作り方を皆と一緒に習った。「ヤヨイ(ヤ)なんと(ヨイ)よいものだ」後にそう呼ばれる土器がこの島に広く伝わるのにはまだまだ年月がかかる。


こんな事もあった、アユより大型の魚を干物にして貯蔵する際、内蔵を捨てるのだが。ヤスはそれを集めてカメにいれ()して濃い色の汁を作った。

「これは万病にも効く、「シルイ」というものだ、菜に混ぜるといい」

その汁は誠に美味く、そのうち付近のムラからもそれを求めにくるまでになった。男が持ち込んだ新しいものは人々の心をつかんでいった。

「ヤス、ここに留まってくれぬか」

ニツはそう言ってその男を快く迎えた。


「ニツ、またやられた。今度は山鳥だ」

最近、ムラで飼っている鳥や獣が一晩で消える、それを守っている番人も殺されてしまうのだ。しかもそれは吹き矢によるものだ。山鳥の小屋は数人の手練れた兵士が守っているのにだ。

「干し肉が作れないと、冬は辛い。これは頃合いに山へ猟に出かけねばならぬな」

「行ってくれるか、ニツ」

ニツは、充分乾かした土偶を焼き窯に並び終えると、オサに笑って答えた。

「ああ、ヘラジカを山ほどとってこよう」

ムラが裕福になるに従い、ちょくちょく盗賊が現れる。しかたない、食料はまたとってくればすむのだ。

(マナに祈ってもらおう、久し振りに会える。何よりそれが楽しみだ)


翌朝、ニツたちはマナに大猟を祈ってもらった。その男の中にはニツが大弓を伝えた若者が数人いた。彼らはムラの精鋭といってもよかった。山に入るとマナの祈りのおかげでたちまち獲物は山積みにされた。その場で血を抜き、解体した。不要な部位は穴に埋め、一人一人が担いで運べる大きさにした。山の神に供物を捧げると、ニツたちはムラに向かった。


「しっ、動くなっ!」

ニツは皆をその場に止まらせると、耳を澄ませた。

(数十人の気配が、ムラに向かっている)

ニツは合図を送り、足音を忍ばせて並走した。ムラはずれに集結したのはオオカミの面を着けた兵士たちだ。

(ムラを襲う気だな、この人数で勝てるか………)

シカの肉をそっと降ろし、ニツたちは弓に矢をつがえた。猟に使ったために、矢壺に矢はほとんど残ってはいなかった。ムラに狼煙が上がった、それを合図にオオカミの面の兵士たちは立ち上がった。いち早くニツたちがいっせいに矢を放った。オオカミの面の男たちは、ばたばたと倒れた。ニツたちに気づき反撃しようとするオオカミ族に向かって二の矢が放たれていた。短いその戦いが終わり、ムラを見ると天高く黒煙が上がっていた。


「皆走れ、ムラを守るのだ!」


ニツたちはその場のシカ肉を置いたまま、丘を駆け下りた。

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