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縄文の赤とんぼ  作者: 黒瀬新吉
11/16

11.オオヒメカヤの望み

「ニツ、生きていたのね。よかった」

「これで当分ヤツらは懲りただろう。ああ、カヤ、なんということだ……」

惨い仕打ちだ、カヤは術が使えないように両方の腕を肩から切り落とされていた。

「なんと、惨い事を、こんな事ならあの男の目玉の一つでも、くり抜いてやればよかった……」

しかしカヤはこう言って心から喜んだ。


「マナにもう一度合えて良かった、これで最期に教えておきたい術が伝えられる」


ムラに戻るとすぐさまカヤはマナを呼び寄せ、カヤの故郷に伝わる呪術を教え込んだ。そしてそれを終えると、やっと安らかに息を引き取った。ムラの広場に巨大な穴が掘られ、棺にはいつもの通り、土偶が入れられた。カヤは術に失敗して殺された巫女ではなかったが、しきたり通り土偶は壊されて一緒に納められた。「オオヒメカヤ」の死を皆惜しみ、村人はその破片でさえ、埋葬穴に投げ入れた。


「マナは明日よりオグニの巫女となる、ニツ心残りのないようにな……」

オサはそう言うと、明日からの衣服を揃えた神殿の別部屋に二人を通した。計らいの酒も置いてあった。マナはニツと最後の睦みごとを終え、ほのかに残るニツの匂いを惜しみつつ沐浴し、ついにオグニの新しい巫女となった。ニツはマナを手本に焼いた土偶の事を思い出した。その美しい土偶はニツにしか作れない。ニツは大弓を置き、新しい巫女の土偶を幾体も作り始めた。


三カ月も経つと、オグニに住むものがますます増え、東北地方でも有数のクニに数えられるようになった。数ヶ所の村を総称し「トオクニ(遠いクニ)」と呼ばれるようになっていた。


「ニツ、変わりはないか」

それはあのキツネびとのオサだった。傍らには腹の膨れた女がいた。キツネびとたちは面を捨て、農耕の民として畑を耕す事を主にした。池や井戸を掘り、ムラびとが安心して暮らせるようにとオサ(オサが呼び名になった)も自ら土を耕しているとニツは聞いていた。

「オサが無事だったのは、すべてカヤ様のおかげです……」


あの夜の事だ、カヤはオサを救いたいと懇願するホノに、自分の腕を切り取り渡したのだ。

「この腕にオサを救うための術を封じました。これを持ち、今よりオサが戻るまであなたは巫女舞いを続けなさい。それだけの思いがあればきっとオサの命は守られましょう」


「それはきっと、ニツ、お前の片腕になれという事だな」

「まあ、オサ様もそんな事が言えるのね!」

照れ笑いをしながら、オサはニツに言った。

「わしらは元は南の民だ、イネやムギを作っていた。この島の南に渡ったものと、この島に北から渡ったものとがいる。ところが北はなかなか作物がとれん、だから猟を続けてなんとか食っていた。ニツ、オグニなら穀物はうんと実るはずだ、役に立つ事があればいつでも手伝うぞ」


オグニの奴婢は身分を解かれ、池を掘る者、蔵や水車を作るもの、土器を焼く者に分けられた。今後はマナに術を使わせないためニツは飢饉と戦う決意だった。


「ニツ、巫女の術は完全なものではありません。天地は容赦しないものです、マナを神殿からとき放ち、お前の女に戻してやって」


それが死の直前の「オオヒメカヤ」の言葉だった。

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