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縄文の赤とんぼ  作者: 黒瀬新吉
10/16

10.人質交換

入れ墨を入れた仮面の兵士がキツネびとのムラに戻ってきた。

「なにっ、オサが捕らえられた、カヤと交換しろだと? 馬鹿な、あのニツが兄者を無事に返す訳がない」

今夜、ホノを殺し、オサが連れ帰った「オグニの奴婢」に暴動を起こさせる。その際にオサとすり替わるという計画が台無しになった。死なぬ程度にオサに怪我をさせて連れて帰ろと、ユマに命じていたトキだった。

「よし人質交換には、わしも行こう。オサの命が心配だ」

伝言を伝えた男に、トキはそう言った。

(仕方ない、カヤは諦めよう。帰る途中に、兄者を殺すのが先だ)


「ホノ、命拾いをしたな。しかし余計な事をしゃべるとお前の命はないからな」

隙を見て命を狙おうと忍ばせていた短剣を、トキは雑作も無く取り上げ、それをホノの頭上の床に突き立てると、単衣の帯を乱暴に解いた。

(私を殺すのは、あなたではない。オサ様だ)

ホノは唇をきつく噛み、トキに身体を任せた。


そして二日後の昼、タジリの峠で人質交換が行われた。


「なんと、カヤを連れてきたのか。馬鹿どもめ、わしなど放っておけばいいものを」

「オサにまだまだ耕して欲しい畑があるのだろうよ」

ニツが笑った。それぞれが人質を連れて歩き出した。道のまん中で綱を交換して戻ってくる。ニツの大弓の腕はキツネびとにも知れ渡っていた。トキの伏兵が潜んでいたがニツにはその位置がことごとくわかっていた。カヤを狙って矢を放つ前に、ニツの矢が伏兵を貫く。その矢の中には明らかにオサを狙った矢もあった。オサはそれを拾うとそっと掴み、膝でへし折った。

「よせ、約束だ。矢を射る事はならん」

オサの命令にトキは用意していた毒矢を収めるしかなかった。


(ユマはどうした、このままだとオサがムラに無事に着いてしまうぞ……)

帰れ道に待ち伏せ、攻撃をする場所を何事もなく通過する兵士たち。傍らの草むらでユマは何かにひどく怯えたのか、その顔を醜く歪め絶命していた。トキはムラに着く寸前に煙のように、行列から消えてしまった。

「ホノ、ホノはどこじゃ……」

(このムラをわしは捨てては行けぬ)

神殿に飛び込むとオサは床に倒れている巫女を抱き上げた。そのだらりと垂れた手には細い枝が握られていた。

「よかった、ご無事で、オサ様……」

そういうと巫女はようやく安心し、オサの腕の中で気を失った。


ホノは昨夜遅くカヤの元に訪れ、トキが帰り道に刺客を潜ませている事を告げた。

「カヤ様、私の術ではそれを防ぐ事はできません。お力をお貸しください、私はどうなっても構わないのです」

「あなたは私の妹、マナと同じ目をしています。その思いのまま「これ」を使いなさい。きっとあなたの思いは叶うでしょう」

ホノはそれをカヤから受け取るとずっと、一心に舞い続けていたのだった。ホノの足の豆がつぶれ、床が赤く染まっていた事にオサは気付くと、ホノを抱き上げ神殿を出た。神殿から数人の神官が慌ててかけ出してきた。人目もある、男も女もそれを何事かと見ていた。オサは皮の仮面を投げ捨てると、こう叫んだ。

「このムラにこの先、巫女はいらぬ、今より頼むものは神ではない。わしのそして皆の腕だ、その鍬の一打ちだ。なあ、ホノ……」


キツネびとのムラに歓声がいつまでもこだました。それを見たトキは歯ぎしりをし、再び薮に消えた。


「おのれっ、いまいましいニツ、見ておれ今に叩きつぶしてやる……」

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