1話 年明けの決起 奪われた茶宝石を取り戻せ!
チョコレートの食べ過ぎにはご注意ください。このストーリーはフィクションです。チョコレートは美味しい物ですが、食べすぎると弊害が起こる可能性が高いです。
完美 智世子は大金持ちの家系である。そして、父より受け継がれし経営手腕は16歳の時点で幼いながらも開花していた。
時は1月上旬、2月14日という聖戦に向けてチョコレートの価格がうなぎ上りに上がる時期だった。彼女は全チョコレートを買い占めたのだ。そして、全世界にある彼女の経営する完美マートでのみ正規のチョコレートが買える世界になった。ただし、価格は約4倍で売られていた。これはチョコレートショックと呼ばれる世界的大事件となるのだった。彼女は全世界を敵に回しているにも関わらず、その姿勢は崩さなかった。それは、彼女の保有する別邸、通称『城』を崩せる人が居なかったからだ。兵の人数は千人規模で守られ武装に関しても整っており、魔法を使える魔法師部隊も存在し、並の戦力では歯が立たないレベルだった。並以上の軍隊にしても、チョコレートの為に軍隊を動かす事など当然できはしなかった。
彼女は知っている。自分は勝者だと。彼女は知っている。自分こそが正しいと。彼女は知っている。自分が優れていると。
そして、裏では彼女は魔王智世子と呼ばれていた。だが、それは彼女にとっては誇りだった。魔王は恐れという形でも世界を統括する様な偉大な者であるからだ。
余談ではあるが、彼女は美しかった。完美家を象徴する様な美しい銀髪に、目には炎が宿るような紅色、高貴さと美しさが備わった容姿をしていた。神は2物以上に彼女を寵愛し数多の才能を与えた。
彼女は未だ知らない。彼女の思惑をただのバカが崩す事を。そして、そのバカを・・・
熱野 冷斗は熱魔法に優れた家系に生まれた少年だった。彼は炎熱系を主としている家系の中で異端だった。彼は主に熱を奪う冷却系の魔法を得意としていた。
「チョコレートの価格が4倍・・・」
冷斗は朝から絶望していた。彼は今まで平凡なチョコレートの価格で満足していたが、それが昨日から4倍になったので絶望していた。
「おにぃー、おにぃー、急がないと学校おくれちゃうよぉー」
妹の華々緒が朝起こしてくれているが、起きる気になれなかった。なぜなら、彼の部屋にあるワインセラーを改造した彼のチョコセラーの最上段からチョコレートが無くなったからだった。それは、決して盗まれたからではない。ただ、彼が全て平らげてしまったからだった。
「我が愚妹よ。俺は絶望していているのが分からないか?」
「うんうん。愚妹には分からないよー。」
妹の華々緒は平然と言う。冷斗にとっては悪魔の様に思えた。彼にとってはこの世界はチョコレート中心にできていて、それ以外は二の次だった。そんな彼の絶望を理解できる者など、この世のどこを探してもいない。
「チョコセラーの最上段のチョコレートが全て無くなったのだぞ、しかも、今のチョコレートの価格は4倍になっていて買う気になれない。つまり、補充しにくいと言う事だ。それは俺にとって世界の終わりを意味する事に近いのだぞ!」
「でもさっ、でもさっ、おにぃのチョコセラーは4段あるじゃん。まだ4分の3残ってるよー?いいじゃんさーそれくらい。」
「だから華々緒は愚妹だと言うのだ!俺のチョコセラーは言わば俺の世界、それが4分の1消失したのだぞ!大事件以外の何が有るのだ?今の俺ならこの世界の4分の1位破壊できる位の絶望を感じている。」
「じゃーさ、じゃーさ。この愚妹めが裏チョコレートを買ってくるよー」
「裏チョコレートだと・・・あんなものチョコレートと認めん。あれはチョコレートという神聖かつ高貴な食べ物を愚弄している。」
この世界には裏チョコレートなる物が蔓延している。どうしてそんな物が生まれたかは、それは偏に完美マートのチョコレートの値段が高すぎるのだ。裏チョコレートのほとんどは完美マートのチョコレートの劣化品、溶かして砂糖等を追加しかさ増ししているに過ぎないそんな物だった。
「あれは、微粒化や精錬、調温技術すらまともに分かっていない者たちが多く、それ以前にチョコレートのカカオ豆とカカオバター、砂糖とスキムミルクのバランスこそがチョコレートという名の至高の芸術品になるというのに愚妹にはそれが分からないのか!」
「うんうん。分かりませんしー、あんまり分かりたくもありませぬー。愚妹は愚妹のままでいいのでするー。そんな事より、学校遅れちゃうよー?今日は始業式だよー?」
「そんなこと?だとおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
冷斗の言葉と共に部屋の熱気が上がった。熱野家特融の熱魔法の弊害だった。熱野家は熱くなると、周りの熱を上昇させる。故に熱野家の魔法師は感情のコントロールこそが最大の教えだった。
「すとーっぷ!すとーっぷ!おにぃ。チョコセラーのチョコレート溶けちゃうよ?」
「そうだった。愚妹よ。俺とした事が怒りに任せてチョコレートを溶かしてしまう所だった。」
「そうだよ、そうだよ。おにぃ、じゃじゃん!これなんだ?」
華々緒が見せて来たのはチョコレートだった。それも裏チョコレートではなく、正規品のチョコレートだった。
「これは、これは、母上からの冷斗兄ぃの寵愛の証にございまするー。学校行く準備をして、遅刻せず学校に辿り着いたらこちらのチョコレートはあにぃの物になりますー。」
「さぁ、行こうか敬愛なる妹の華々緒よ。」
準備は一瞬だった。瞬時に彼の服は学生服になり、瞬きをする間の時間で寝癖を直し髪の毛をセットした。それは、熱野家の熱魔法とは異なるが、冷斗は様々な魔法が使えた。それは全てチョコレートの為に覚えたと言っても過言ではない。
彼が使った魔法の一つは着替えの魔法、伝説の魔法少女なる者の着替え速度を超越し、即座に衣を変える事ができる。それは、本当に美味しいチョコレートを食べる時に彼は正装といってショコラティエの様なださ・・・清潔な服に着替えて食べる。その際、服に付いている可能性のある雑菌を着替えという作業を行って手に付けさせない為に魔法で着替える事が出来る様にしたのだ。その名も『敬愛なる物への装変化』
次に使った魔法は、髪の毛をセットする魔法だった。彼はチョコレートを食べる時に、チョコレートに髪の毛が落ちてきた事が有った。それから、髪の毛を硬めにセットし髪の毛を落とす事を無くしたのだ。その名も『邪なる落下物への鎮魂歌』
「おーおー、今日もおにぃは準備が速いねぇー。」
華々緒は拍手する。しかし、冷斗と華々緒は会話をしすぎた。遅刻までの猶予時間がほとんど無くなっていた。自転車で走ってもギリギリ間に合わないレベルだった。しかし、この兄妹は焦ってはいなかった。華々緒は悠々と釣竿を用意し、その釣糸の先に正規品のチョコレートを取り付けた。そして、冷斗に跨った。太ももと太ももの間に兄冷斗の首を挟む様な形だった。つまりは肩車の状態だ。
「遅刻したら大変だもんな。」
冷斗はそう言うと玄関の扉を開き、家の扉の鍵をかけ、自己展開魔法を使った。彼が使った魔法は理性が無くなるが身体能力を向上させる魔法だった。その名も『全てを捨てて愛に生きる(バーサーク)』
冷斗は目の前にあるただ愛すべきチョコレートを求めるだけの化物に変化した。推進速度にして、1分1km以上で進んでいた。それは、お荷物である華々緒を乗せても有り余る速度だった。
本来はお荷物である華々緒を乗せているのには理由が有った。それは、『全てを捨てて愛に生きる(バーサーク)』を使ってしまうと、そのままではチョコレートに向かい進み続ける機械になってしまうので、制御装置が必要だった。それが、彼女の役目だった。彼女は釣竿を左右に操作し、化物の方向転換をした。時に車という物は信号等で止まる必要がある場合があるだろう。ただし、化物は止まらず、釣竿を上に引き上げる事で信号を抜ける。そうすると、彼は飛び上がる。そのまま、横断歩道を幅跳びの様に渡りきる。一度だけ、過去に大型車に接触した事もあったが、そこは華々緒の腕で二度目の接触は起こらなかった。ここで気になる事があるだろう。そう、チョコレートを求める化物の停止方法だ。それも、華々緒の役目だった。華々緒は低級魔法解除の魔法を覚えているのだ。冷斗がバーサークを覚えるにあたって、華々緒に覚えさせたのだ。それは、目の前のチョコレートの為に他のチョコレートが犠牲になる事が恐れた冷斗の実に冷静な判断だった。最初は華々緒は嫌々だったが、冷斗の言葉によって説得されるのだった。それは、「我が妹よ。愛するものの為に愛するものが犠牲になるのは許されない事だと思わないか?俺はそれを防ぎたいんだ。」この言葉に感化され華々緒はディスペルを覚えるのだった。無論、愛するものとはチョコレートの事である。華々緒がその事に気付くのは少し後になるのだった。
冷斗達兄妹が彼らの所属する高校『竹木土高校』の教室に着いたのは始業の5分前だった。華々緒はディスペルを使い、冷斗に正規チョコレートを渡し颯爽と1年の彼女の教室に入って行った。
「おはよう冷斗くん。今日もギリギリだったね。」
挨拶をしてきたのは冷斗の所属する2年2組のクラス委員長の諸狐羅 千恵生徒会長であり、三つ編みメガネの普通な少女だった。この物語の一番の普通の常識人であり、普通にかわいらしい。家庭的で比較的男子に人気も高く、冷斗も懐いている。
「おはよう委員長、今日もさわやかな朝だな。」
冷斗の笑顔はとても爽やかだった。なぜなら、彼は正規チョコレート「十二粒茶宝石」を食べていたからだった。
「さわやか・・・ね。相変わらずだね。まぁ、それは置いておいて、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
諸狐羅は内心呆れていた。それは、教室の窓から兄妹の登校する様子を見ていれば当然である。
「あけましておめでとう。今年もよろしくお願いな委員長!」
そういうと、チョコレートの最後の一粒を食べる。食べている間は爽やかで幸せそうな表情をしている。そして、チョコレートの味が口から無くなると。脱力していた。毎度の事ながら笑いながら諸狐羅はそれを眺めているのだった。
そして、始業式になった。校長等の長い話があったが冷斗は聞いておらず、ただ、チョコレートの事を考えて立ち尽くすのみだった。
始業式が終わり午前中に解放されるとクラスの皆と別れ、脱力したまま下校するのだった。道中、華々緒と合流した。冷斗は完美マートにより高額なチョコレートを買うか悩んでいた。
「チョコ・・・チョコ・・・チョコ・・・」
脱力した冷斗は廃人の様だった。チョコレートが切れた冷斗は麻薬を欲する人の禁断症状の様にチョコレートを欲していた。
そして、そんな姿を見た華々緒が提案するのだった。
「じゃあさ、じゃあさ、おにぃは城に攻めちゃえばいいじゃん。そして、魔王と呼ばれている完美智世子を倒しちゃえばいいじゃん。」
華々緒は気軽に言う、まるでハイキングに行けばいいと提案する位に。そこは、1国の軍が動かないとどうにかできないレベルである。
「その手が有ったか!」
冷斗は活力のある目で華々緒の方に振り向くのであった。
智世子「チョコレート奪った訳じゃないし、チョコレート普通に買えるし、私悪くなくない?需要と供給のバランスを崩して少しお値段上げただけだし。なんで魔王って呼ばれるのか本当は分からないんだよね・・・まぁ、魔王ってかっこいいからいいけどさ。」