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時ちゃんなんかしんじゃえばいいのに  作者: 大上ユークリウッド
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時ちゃんと運命の一日――後半戦――3

時ちゃんと運命の一日――後半戦――3


 ここがどこかは分からない。

 でも、すごい湿気ってて埃っぽい、蝋燭の明かりだけが照らす薄暗い場所なんだって気づいた。

「そうなんです……私は悪くないんです……悪いのはクライチさんなんです……お仕事がなくなったんです……私は不幸になりました……復讐したかったんです……嘘じゃないです……ぶたないでください」

「本当に? もう一度繰り返して? 誰が悪いの? 何が悪いの? それで? それが動機? 嘘でしょ? そんなくだらないことでくーちゃんをいじめたの?」

 そんな声がこの部屋にはずっと響いている。内容は質問みたいだけど、宗教とかによくある神父様に赦しを乞う、罪の告白みたいだった。

 でもそれは、終わることなく何度も続いていて、繰り返し女の人は泣き声混じりで質問に答えていた。

 質問している人の声が、無機質で抑揚もない人間の発したものだとは思えなくて、最初は誰か分からなくてテープの垂れ流しに聞こえた。でも、質問内容や私のあだ名が連呼されることから、時ちゃんなんだって分かる。

 私は顔を上げると、口元のガムテープも拘束された手と足も自由になっていることに気づく。暗いので手元がよく見えないけど、ベットに横になってたみたい。それも木製で古めかしい年季が入ったかたいベット。

「なにしてるの?」

 蝋燭が灯す場所で、時ちゃんは麻袋をかぶされた物体に黒い銃をじりじりと押し付けていた。

 どうしてそんなことをしてるのか、それがただ気になって時ちゃんに聞いたんだ。

「くーちゃんやっと起きたの?」

「やっと? 起きるのが遅いってこと?」

「そんなことないよ、まだ三時くらいだし、でもずっと待ってたから」

 ずっと……と言う時ちゃんは黒い銃を麻袋にぶつけた。麻袋は赤黒く染みてて汚くなっていた。

「そうなんだ……それで、今なにしてるの……?」

「ゲームだよ、くーちゃんもする?」

「ゲーム? それってトランプとかすごろく?」

「ううん、最新のバーチャルゲーム、ゾンビを潰していくの」

「……ぶいあーるだっけ?」

 もうあれは夢の中の出来事だけど、時ちゃんと一緒にヘリコプターから飛び降りたゲームのお話を思い浮かべる。

「そうそれそれ、ぶいあーるだから、現実じゃないから安心して、ゲームのお話だよ」

 なんだ……またゲームのお話だ。私はかわいい絵本の中にいけるゲームがいいな。

「私は、そういうの苦手……怖いからしたくない、夢に出そうだし」

「ゆめ……? そうそう、これ夢だから、これが夢だから、思いっきり潰していいんだよ」

 麻袋の物体がうめき声をあげてごにょごにょ動く。何が入ってるのかな? ああ、ゾンビだった。

「うわ、はやく潰さないと襲ってくるかも、えいえい」

 がつんがつんと黒い銃を思いっきりぶつける。そのたびに大人しくなるけど、また暴れだすからきりがなさそう。はやくとどめを刺せばいいのに。あ、ゾンビって不死なんだっけ?

「すごく痛そう、でも時ちゃんはたのしそうだね」

「うん、ストレス発散にはちょうどいいかも。くーちゃんも潰す? コントローラー貸してあげるよ?」

「……うん、一回だけなら」

 時ちゃんが差し出す銃の形をしたコントローラーを受け取る。それはとても重くて、銃というより鈍器に近いものだと悟り、赤い赤い布へと銃口を思いっきりぶつけた。静かになれってお願いしながらぶつけた。きっとそうやって使う物じゃないけど、この引き金を引くととってもうるさいからこうして使うのが一番なんだ。

 ぶつけると不思議な気持ちになる。いままでの鬱憤うっぷんを晴らしている気分。

「そっか……ドクターエリリィはこう言ったのかな?」

 ドクターエリリィの危険な親切っていう絵本。そのなかで、ドクターエリリィが旅の男に言った言葉は伏せられていた。

 伏せられた言葉に私はセリフを追加する。

「銃を捨てて私にくださいって、そうしたら旅の男を村に迎え入れましょうって。ドクターエリリィが旅の男をかくまうために吐いた嘘だったんだ。それで旅の男を、最後はぶったんじゃないかな? あの若者はきっと村にいた唯一の若者で、別人なんじゃないかな?」

 だって人は簡単に変われない。

 それはもう、時ちゃんやあの女の人を見ていれば分かるんだ。嘘でもついて、騙さないとお話は進まない。

 気づくと、一回だけって言ってたのに麻袋へ何度も黒い銃をぶつけていた。

「あの女の人ね、お父さんの幸せを壊すために私をさらったんだって……そんなことしても自分が辛くなるだけなのにね、バカだよね」

「うんうん、バカは一生バカのままで治らないって言うし、ほんと迷惑ばかりかけるから嫌になっちゃう」

 時ちゃんがそれいっちゃうんだ……、変なの。

「私は勉強すれば治ってほしいけどね、はい」

 時ちゃんの言う通りストレス発散にはいいけど、ゾンビがかわいそうだからもうやめてあげる。もう動かないみたいだし。

 コントローラを返すと、あくびがでて眠気がひどくなる。夢の中なのにすごい眠いのってなんだか可笑しい。

「そこのベットで寝れば夢は終わる……よ、もう寝ちゃう?」

「うん……明日から学校だから……時ちゃんとまた……学校だから……」

 夢の中の時ちゃんにそう言われたから、いうとおりかたいベットに戻る。木製だから寝心地は悪いけど、夢だから仕方ない。

 それにそうしないと明日が来ないんだって。やっぱり可笑しなお話だよね。



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