969手間
翌朝、陽が昇るよりも早く、といっても窓が無いので大体の感覚であるが。
そんな時間に起こされた。
「おはようございます、座下。この様な空も白む前より申し訳ございません」
「あぁ、陽が昇るころから何ぞの泉に浸かるんじゃったかの?」
「はい、その通りにございます」
首都大司教と共に部屋に入って来た、他の聖職者が持ってきたゆったりとした白いローブに着替えさせられる。
「これより聖なる泉に向かいます」
「ふむ、そこでワシは何をすればよいのかの?」
「座下には陽が昇るまで、泉の中で祈って頂ければ結構です」
「それだけで良いのかえ?」
「はい、聖なる者であればあるほど泉に浸かろうとも、寒さを感じず祈ることが出来るのです。寒さに震える者はその寒さに耐え、己の身を清め聖なる者に近づくのです。ですので歴代の神王は、まるで温かい湯に浸かっているかの如くだったそうです」
「ほほう、なるほどのぉ」
体内のマナの容量が多い者ほど寒さ暑さに強くなる、それを聖なる者と例えているのならば宝珠がある位マナの多い歴代の神王ならば冷たい水くらい平気だったろう。
といってもただ宝珠がある程度では寒さに余裕で耐えれるというだけで、ワシのように全く苦にしないという訳では無いだろう。
何にせよワシにとっては水浴び程度の儀式という訳だ。
「ところで、その泉にはクリスも一緒に浸かるのかえ?」
「いえ、聖なる泉は男女で別ですので」
「そうかえ」
当然といえば当然か、この聖なる泉に入るにはワシが今身に着けている白いローブ一枚だけが許されている。
聖職者とはいえ、いや、だからこそ男女一緒に入る訳にはいかないのだろう。
しかしそうなると寒さに耐える必要もないワシは、浸かっている間は暇になるのだが、寝てても良いだろうかなどと思ったが、流石に怒られそうなのでワシは黙って首都大司教の後について行くのだった……




