957手間
子狼たちが産まれてふた月ほど経ち、随分と狼らしい凛々しさが増してきたが、その増したものすべてをまだまだ可愛らしさが覆っている。
乳歯も生えそろい、骨を抜き叩いてある程度柔らかくしているらしいが、お肉も食べ始めたのでますますこれから大きくなってゆく事だろう。
この可愛らしい姿も、もうすぐ見納めかと思うと名残惜しくもその成長を喜ぶ気持ちで満たされる。
「セルカ、今は良いけど、この子たちが大きくなったらどうするつもりだい?」
「ぬ、むぅ。狩りを教えれればよいのじゃが、流石にそれはワシでは無理じゃしのぉ。そもそも狼は群れで暮らす動物じゃ、それから逸れておったアイオやライトでも上手く教えれるかどうか」
「野生に返すと?」
「無理じゃろうのぉ、それを前提に育てておれば大丈夫じゃろうが……」
外敵にも飢えにも怯える必要のない生活で育った狼が野生に返れるわけがない。
森に返すのは容易いだろう、だがそこで生きて行けるかどうかは別の問題だ。
「そうか、まぁ、この子たちを飼うのは何の問題も無いが、増えないだろうね?」
「それは大丈夫じゃろう、この子らは皆雄じゃし、アイオ同様に番を見つけて来れば分からぬが、ワシとしては是非とも見つけてほしいところじゃ」
「しかし、数が増え過ぎては流石に飼い切れないよ」
「それなんじゃがの、騎士たちに相棒として飼ってもらうのはどうじゃろうか? 魔物の臭いを覚えさせれば良い猟犬になるじゃろうし、何より遠征中などの癒しになるじゃろう」
「なるほど……」
元々狩りをする動物だ、魔物を発見するのは人よりも上手いだろう。
そうすれば効率よく魔物を狩るだけでなく、受ける被害も減るはずだ。
「確かに遠征の道中が厳しいと心が荒む、などと聞いたことがあるな、それの助けになる、か?」
「それは人によるとしか言えぬがのぉ、ペットを飼うことで気を持ち直したという話も聞くしの、効果はあるんではないかの?」
アニマルセラピーなどという分野もあるのだし、そう悪いことではないはずだ。
今は殆どペットを飼う人は居ないが、ペットを飼う文化が出来て来れば獣人の地位向上にもなるはず。
ぶっちゃけ今思い付いたことではあるが、獣人というのはワシ程では無いにせよ皆動物の扱いが上手い。
今すぐは無理だろうが、いわゆる名ブリーダーというものが獣人から生まれれば、きっと良い方向に行くはずだとはしゃぎ回る子狼たちを眺めながら一人ほくそ笑むのだった……




