955手間
クリスはよほど子狼たちが気に入ったのだろう、暇を見つけてはワシと共に頻繁に子狼たちに会いに来ている。
だからだろうか子狼たちもクリスによく懐き、足下に纏わりついてはクリスの相好を崩している。
最近クリスは色々と学ぶことが多いらしく、子狼たちとのじゃれ合いはよい息抜きになるのだという。
今はお互いソファーに座り、ワシとクリスの膝の上に三匹ずつ乗せている。
「王太子というのも大変なのじゃな」
「まぁ、必要なことだからね」
照れたように言うクリスだが、その顎目掛けてぴょんぴょんと子狼がジャンプしているので何ともシュールだ。
子狼たちはまだまだぽてぽてという擬音が似合いそうな歩き方だが、ますますわんぱくさが増して屋敷内を所狭しと駆け回っている。
「ところで、どういう事を学んでおるのじゃ?」
「そうだね、今は主に貴族たちの名前とか、だね」
「それは何ともめんどくさそうじゃな、ワシには無理じゃ」
ワシは膝の上で三つ巴になって眠っている子狼たちを撫でながら苦笑いする。
人の顔と名前を覚えるのは苦手なので、その勉強をワシも知ろと言われなくて良かったと内心ほっと胸を撫で下ろす。
「それにしても、セルカの膝に乗っている子たちは大人しいねえ」
「まぁ、ワシのマナは安心するのじゃろうな」
クリスの膝に乗っている三匹の子たちは、何が面白いのかクリスの顎をさっきから執拗に狙っている。
それを手のひらでなんとか防いでいるクリスは、それはそれで楽しそうだ。
「ふむ、そろそろこの子たちも外で遊ばせるのがよいじゃろうな」
ワシらの下に居ない、今はアイオを敷布団にして寝ている二匹を見ながらそう呟く。
「何をして遊ぶんだい?」
「そうじゃな、外に慣れるまでは普通に走り回るだけでよいじゃろう、この子たちにとってはそれだけで面白い遊びになるはずじゃ」
「そうか、その時は是非とも教えてくれ、外を駆け回るこの子たちは可愛いだろうしね」
「んむ、もちろんじゃ」
そういってお互い外で駆け回る子狼たちを想像したのだろう、同じような表情で二人微笑み合うのだった……




