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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
間章
98/3465

その頃のあいつら

 セルカがカルンの家に挨拶に行った日、適当に狩りをして宿に戻ってきたら伝言が残されていた。


「カルンの家に世話になる…か」


「まぁ、ふーふなんだし当然じゃねーの?」


「しっかし、宿のねーちゃんの話じゃ、その言付けを残してったのはメイドってやつなんだろ?」


「ん?あぁ、給仕みたいな服した女って話だからな、多分そうだろう」


「けどアレックスよぉ、この街でメイドが居るのって領主様の家だけじゃね?」


「…カルンは領主様の息子…だったのか…?」


 ジョーンズの疑問に、インディも顎に手を当て首を傾げている。


「かーっ、うらやましいねぇ!綺麗な女の子侍らせてご主人様とか言われてみてーわ」


「その分、領の運営なんかで大変だって聞くけどな。それに、ここの領主様の場合、メイドや侍衛なんかは孤児だったり怪我でハンターを続けられ無くなった奴を優先して雇ってるらしいぞ。内勤の衛兵の中にも怪我で引退した知り合いがいるしな」


「あー確かに、俺も衛兵に似たような知り合い居たわ。やったら領主様に感謝してたが、そう言う事だったのか」


「あぁ…」


「んー、どうしたよ一人で納得しちまってよ」


「いや、東の領に居た時にクソ貴族に会っただろ?」


「あの豚な」


「カルンがやけに怒ってた様子だったからな…領主様の息子、同じ貴族としてってんなら納得だなと」


「あーなるほど、セルカに粉かけたからだと思ってたが、今にして思えばその前から話に出るたびに、ちょくちょくキレてたな」


「三男だと言ってたから家を継ぐことは無いだろうが…領主様の息子に嫁ぐ…か、あいつも引退しちまうのかな…」


 サンドラの事を思い出し、宿の食堂で男三人、天を仰いでため息を漏らす…傍から見たら気色悪い事この上ない。

 しばらく無言で食事をしていたが、沈黙に耐えかねたのかジョーンズがしゃべりだす。


「ま、聞いても無い事を気にしててもしょうがねぇ、引退するにしろ続けるにしろめでたい事には違いねぇ、次会ったらしっかり祝ってやらねぇとな」


「そう…だな…」


 そのジョーンズが、パンとスープと焼いた肉の食事に目を落とすと、深くため息をつく」


「どうした?」


「いやな…あいつら今頃いいもん食ってんだろうなぁってな」


「いいもんって、それは息子が嫁を連れてきたんだ、それは豪勢な…」


「「「はぁ…」」」


 今度は顔を下に向けて、ため息をつく。

 一方その頃、当のセルカは裸にひんむかれ、カルンは励めと発破をかけられていた。


「さてと…今日からしばらく街の近くで狩りだ、護衛なんかの長期は暫く無しだ」


「ん?アレックス、なんかあったのか?」


「あぁ。今朝、追加の言付けがあってな。詳細な日取りは決まってないが、結婚式は次の巡りに入ってからだそうだ。少なくともそれまではこの街にいるらしい。護衛は何があるか分からんからな、やるなら結婚式の後だ」


 朝食を摂りつつ、今後の予定を決める。

 いや、予定と言うかいつも通りか…狩りも不測の事態は起こり得るが、ひと月程度なら兎も角、次の巡りまでだとノルマがまずい。


「そういや、セルカとカルンは、ノルマ大丈夫なんかね?」


 ジョーンズの疑問に、インディも気になったのか頷いている。


「セルカは二だし免除になる気はするが、カルンも領主様の息子だし大丈夫なんじゃないか?祝い事が理由だし多少は慮ってくれるだろ」


「それもそうか。んで、今日はどうすんだ?」


「東の森に狩りに行こうと思う、最近魔獣やらが増えたって話だったからな。けど新米の飯を取らない程度に…だがな」


「んじゃ、さっさと行って帰ろうぜ。昨日よさげな店を見つけたんだよ」


「それは…急がないとな」


 手早く朝食を食べ終えると、馬車に乗り東へと向かう。

 東の森に着くと近くにあった岩陰に馬車を止め馬を放す。

 最近じゃ呼んだら来る程になったため、仮に馬車が襲われたり盗まれたりしても、こいつさえ無事ならどうとでもなる。


「よし、しばらくしたら戻ってくるから、その辺りで適当に遊んでろ」


 首を叩いてやると、了承したとばかりに嘶いて走り出していった。


「んじゃ、さっさとやりますか」


 ジョーンズの声を合図に、剣を抜き放ち森へと進む。

 暫く無言で進むが、独身三人女っ気もなく、後輩に先を越されたという考えばかりが浮かんでくる。

 その思いを振り払うかの様に、襲ってくる魔獣を切り捨てる。


「確かに心なしか前より多くなった気はするが、なんかあったか?」


「東であった氾濫のせいじゃないか?こっちからも新米がかなりの数が行ったんだろう…稼げるからな。しかも、今回は五や四でも魔法や弓が使えれば参加可能だった。喜び勇んで行ったはいいが、帰る金が無くなって向こうで活動中と…」


「ありえそうだな、けど氾濫は終わったとはいえ、まだしばらくは向こうも魔獣やらが増えそうだし、いい稼ぎにはなるんじゃないか?」


「だな」


 そんな時、森の奥から誰かの悲鳴が響く。


「っ!んだよ!」


「誰かが襲われてるかもしれん、行くぞ」


 声がした方へ駆け、少し木々が開けた場所に、まるで木の実の様な色の楕円形の体に、巨大な牙を持った四足の奴がいた。

 そしてそいつが見つめる先には、木に背中を預けた状態でへたり込んだ、一人の少年が居た。


「ちっ、新米か」


「やべーな」


 奴はまるで力を溜めるかの様に地面をかいており、走っては間に合わないと、近くにあった石を拾い上げ思いっきり投げつける。

 運よく投げた石は奴の顔に当たり、標的がこちらへと変わる。


「インディ!」


『アイスボルト』


 体の向きを変え突進を仕掛けようとした奴の横っ腹に氷柱が突き刺さる。


「でぇぇりゃあああ!」


 気合いと共に頭を斬り付けるがなかなか硬く、薄皮を切る程度で弾かれた。


「こいつ魔獣じゃない、魔物だ!気を付けろ!」


 切り付けた時に見えた額の宝珠、魔物がこんな浅い所に出てくるとは運が悪い。

 巨大な牙を振り回すのを避けつつ何度も斬り付けるが、流石に魔物は硬くて決定打にならない。

 インディの魔法は効いてるようなので、こちらは気を引く程度に抑えて任せるかと思っていた矢先、こちらはすぐに倒せないと判断したのか、いまだに木の傍でへたり込んだままの少年へと向き直る。


「やらせるか!」


 しかし、それはフェイクだったのか牙をこちらに一気に叩き付けてくる。


「くっそっ!」


 何とか剣を盾にすることに成功したが、勢いまでは殺せず地面を転がり、キィインという甲高い音と共に剣が折れてしまった。

 それを好機と見たか、奴が頭を低くして此方へと突進してくる。吹き飛ばされた痛みで立ち上がれず思わず両手で体を庇う姿勢しか取れない。


「うりゃあああ!」


『アイスボルト』


 もうだめかと思った瞬間、奴の横から氷柱が飛び、それに続いてジョーンズが奴に剣を突き立てる。

 深々と突き刺さった剣の痛みか、突進を止め暴れ、その弾みで剣を握ったままだったジョーンズが投げ出される。

 しかし、そこへインディの魔法が追い打ちをかけると、遂に魔物は地面へと崩れ塵に変わり、巨大な牙や魔石と共に、突き刺さっていたジョーンズの剣がガランと地面へと転がる。


「いってって、くっそあの馬鹿力め。大丈夫かアレックス」


「あぁ、助かった。まさか剣が折れるとはな…そろそろ買い替え時だとは思っていたが」


 腰を打ったのか、そこを押さえつつジョーンズが手を差し出してきたので、手を取り立ち上がる。


「ま、金はあるんだ、せいぜい良いのを選ぶんだな」


「はぁ…そうだな。しかし、こんなのを一撃で倒すんだ、つくづくセルカは規格外だったな」


「全くだ、引退なんてもったいないぜ」


「まだそうと決まったわけじゃ無いがな。っとそうだ、やられてた新米は?」


「ん?そういや、そんなのも居たな」


 当の本人は木の傍でへたり込んだままだった、近づいてみるが見たところ重傷などは負っていない様だった。


「おい、お前、大丈夫か?」


「は…はい、体中痛いけどなんとか」


「他に仲間は?」


「いえ、僕一人です」


「そうか…なら一度戻ろう、俺も剣が折れちまったしな」


「はい…いたっ!」


 さすがに怪我をしてるか、立ち上がろうとしてふらついたのを受け止め肩を貸す。

 折れた剣を捨て、そのまま新米に肩を貸したまま馬車へと戻る。

 草を食んでいた馬を呼び戻し、馬車に繋ぎ直している間にインディらが新米の様子を見ていたが、幸い大きな怪我も無く、せいぜい骨にヒビが入っている程度だろうと言う事だった。

 インディが御者をやってくれるとの事だったので、馬車を任せ少年から話を聞くことにする。


「全く、魔物に襲われて、その程度で済んだのは運がよかったな。そう言えば武器はどうした?」


「夢中で逃げてるときに落としてしまいました…」


「ホントに運がよかったな…」


 ボロボロとはいえ革の胸当てと鞘を付けてるところを見ると獲物は剣を使うのか…腕輪がないから四か五か。


「しっかし、なんでまたあんなとこに一人で居たんだ?」


 剣の手入れをしていたジョーンズが少年に聞く。


「前までパーティを組んでたんですけど、この間の氾濫の鎮圧に参加して、僕は家がこっちにあるから帰って来たんですけど、皆は残るって言って僕だけこっちに戻ってきたんです」


「なるほどな、あの鎮圧に参加したと言う事は三か?腕輪が無いようだが、まさか落とした?」


「いえ僕は四等級です。弓が使えたから街の中からの援護として参加しました」


「あー、それで魔獣や魔物があの程度なら、一人でも大丈夫だと勘違いして奥に行っちゃった口?」


 ジョーンズが茶化すが図星だったようで俯いて黙ってしまう。


「ま、そういう奴を出さないために普段は三等級未満の奴は参加できない様になってるんだ。今回が特殊だっただけだ、けど助かったんだ、今後気を付ければいい。普通そういう奴に今後は無いからな」


「は、はい!ありがとうございます!」


 俯いたままだった頭をぽんぽんと叩いてやれば、勢いよく顔を上げ、すこし上気した顔でこちらを見つめてくる。


「あーそうだ、お前名前は?俺はアレックス、こっちのがジョーンズで、いま御者やってるのがインディだ」


「僕の名前はアイナです!」


 アイナ…か。女みたいな名前だが女神様の祝福だ、文句言っちゃいけないな。

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