949手間
八匹の子狼を産み終わり、ライトは疲れ果てたのか、はたまたお乳を飲みやすくしているのか分からないぐでんと伸びた姿勢で横になっている。
そのお腹の前で八匹の子狼たちは夢中でお乳を飲み、ときたま邪魔なのかてしてしと他の兄弟たちを足蹴にしている。
「かわゆいのぉ」
ワシの独り言にキューンと同意するようにアイオが鳴く。
だがアイオ以外にワシの独り言に返事する者は他には居ない。
アニスを含め、侍女や使用人たちはライトが子狼を産んでいる間に解散させた。
子狼の世話をするのに人手はあった方がいいが、子狼が小さい内はまだまだ無理だろう。
産んだ子の近くに居れるのはワシだからであって、他の者が近付けば容赦なく攻撃されるに違いない。
「さてとワシはそろそろ行くから、ライトはゆっくり休むのじゃぞ」
何時までもコロコロとした子狼たちを眺めていたいが、そろそろ夕飯の時刻になりそうだ。
狼屋敷からやや離れた所にアニスの気配があるので、恐らくはワシを呼びに来たのだろう。
うとうとしているライトと子狼を守る様に近くに伏せているアイオをひと撫でしてから、子狼に尻尾を引かれる思いで狼屋敷を後にする。
「アニスや、ライトが落ち着き、子狼に言い聞かせる大きさになるまでは、ワシがエサやら持ってゆくからの」
「お嬢様、その様なこと私どもがやりますので」
「ダメじゃ、おぬしらは喰い殺されたいのかえ?」
ワシの言葉に当然アニスが反発するが、次のワシの言葉にうっと声を詰まらせる。
アイオはそこらの野良犬よりまし程度には侍女や使用人たちに懐いているのだが、いや、むしろアイオですらまだそれくらいなのだ、最近ここにやってきたライトがどうかは言うまでもない。
普段はワシの言葉を聞き、侍女や使用人たちがエサやら周りの世話をしているから、ただ単に見逃されているに他ならない。
だというのに子供が産まれた直後の気が立っている時期に行けばどうなるかなど、人ですらヒステリックになるというのに狼がヒステリックになれば……。
「ワシとしてもかわいい子狼を見せてやりたい気持ちはあるがのぉ、まぁ、それは二代、三代と人に慣れた頃の楽しみに取っておく事じゃな」
かわいい子狼を想像でもしたのか、アニスは今度は別の理由でうっと呻き声をあげる。
彼女らに見せれるくらいの大きさになったとしてもまだ子狼と言えるであろうし十分かわいいと思うので、産まれた直後の姿は暫く諦めてもらいたい。
「では、エサなどを近くまで運んだり用意することは、私どもがやりますので」
「んむ、それは頼むのじゃ、ワシはそういうの知らんしのぉ」
ワシはアイオたちのエサを、何処に保存して何処で用意しているのは知らない。
とりあえず狼屋敷周辺の掃除をする際は、出来る限り気配を消すように注意するかなど、アニスと宮殿へと戻りながら今後しばらくのアイオらの世話の注意点を考えてゆくのだった……




