946手間
祝勝パーティも無事終わり、のんびりとした日々が戻って来ると思いきや、ワシの周囲は慌ただしくという程のものではないが、再び騒がしくなる。
というのも次はワシとクリスの結婚式が控えているからだ。
ただ、ワシだけはその喧騒から無縁で、のんびりとした日々を過ごしている。
ワシは再びドレスの試着や採寸を繰り返すのかと内心辟易していたのだが、それもなくありがたいのだが反面不安にもなってくる。
結婚式において花嫁のドレスは最重要と言っても過言では無いだろう、しかもドレスは一から手作りだ、仮縫い段階での試着や採寸は必須だろう。
「のうアニスや、ワシのドレスの試着なんぞの予定は入っておらんのかえ?」
「はい、私の知る限りその様なご予定は入っておりません」
「ふぅむ、じゃがワシのドレスを仕立てるのに必要じゃろ?」
ワシが疑問を口にすれば、アニスはなるほどと納得の表情を見せる。
「それでしたらご安心を、先の祝勝パーティにお召しになられたドレスを仕立てた際に、採寸などを一緒に済ませたそうです」
「あぁ、なるほどのぉ」
何度か型紙から切り出して仮縫いしたばかりのドレスに変わったことがあったので、その時はまた最初からやり直しているのかと呆れていたモノだが、なるほど別のドレスを仕立てていたのならば納得だ。
あの時は何度やり直すのだと思っていたが、お蔭で再びあの苦行を味わう必要が無くなったのならば、長い時間マネキンの如くになった甲斐があったというものか。
「して、完成したそれはいつ見れるのじゃ?」
「先日進捗を確認しましたところ、まだ半分ほどとか」
「それで間に合うのかえ?」
確かにまだ結婚式までは数か月ある、そこでまだ半分とは大丈夫なのだろうかと心配になる。
「それは大丈夫かと、大幅に余裕を見てとのことでしたので」
「ふむ、それならば安心、かの?」
つまりワシはその数か月暇ということか、結婚式までに必要なあれこれは全て周りの者がやってくれるのでワシがやるべきことなどまず無い。
ちらりと外を見ればはらはらと雪が舞い、流石にこの中を散歩するのもさしものワシとて躊躇する。
ならばやはり本しかないかとアニスに適当な本を持ってきてもらい、暖炉の前の椅子へと移動してさぁ読もうかとしたその瞬間、なかなかに慌ただしい足音が外から聞こえ、開きかけた本をパタンと閉じるのだった……




