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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
間章
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93手間

 買い物から帰り夕食を終え、お茶を飲んでまったりしながらお母様は今日の出来事を報告している。

 報告と言っても祝福の事はサラリと流し、あの服がかわいかっただの、どの髪飾りが似合ってただの、褒められて照れる様がキュートだっただのそんな内容ばかりだ。

 初めは楽しそうに聞いていたお兄様達も、今やその終始上機嫌なお母様に引き気味だ。


「そういえばあなた、領内の町に正式な名前を付けて管理しやすくするのはどうかって提案があるんだけど」


「ふむ?町に正式名を付ける、か…それは大丈夫なのか?」


「えぇ、その町に住む人の想いはあれど、町そのものに魂は無いから大丈夫じゃないかしらって」


「なるほど…それはお前が思いついたのか?」


「いいえ!思いついたのはセルカちゃんよ!」


「ほう…ふぅむ。名付けを行うメリットとして、どの様なものがあると思う?セルカ」


「う…うむ?メリット…のぅ。すぐに思いつくのは分かりやすいと言う事じゃろうのぉ。税を町毎に管理しておるのであれば、どの町からの税などがすぐにわかるしの、護衛依頼でも目的地などが判り難かったからのぉ」


「確かに…今まではかなり面倒だったな、他にあるか?」


「例えばその町に特産品でもあれば、特産品にその町の名を冠することで、その町の宣伝となり豊かになるかも…とかかの?何という町のものは質が良いからそこから仕入れよう、とかの。他の町で似たようなものを作っておったりすれば、あの町のものに負けぬよう頑張ろうとか思うかもしれんしの」


 所謂ブランドってやつだ。今でも同じ街中という範囲ではあるが、何という人がやって居るお店は評判がいいとかはあるし、そういうのが町単位になるかもと言う話だ。


「主要な街道の警備も増えているし、荷を増やすデメリットは減っているな。それを狙う魔獣の増加はギルドへの増資で賄えるだろう」


 人の行き来が増えればそれだけ魔獣も活発化する。ギルドから出す護衛依頼に増資により色が付けれるようになったり、人数を増やせるようになれば安全性は増すと後で教えてもらった。


「周知さえ出来ればメリットの方が大きいな…なぜ今までそれに気づかなかったのか」


 お父様は目を瞑ってじっと考え事をしている。


「ケイン、セイル。明日からの視察は延期だ、まずこの件について草案を練る。町の名前は、現在の町長や納めている貴族の名前を基にすると言えば一も二も無く頷くだろうがな。カルンとセルカも同道させてお披露目も兼ねてと思っていたが…この件がある程度広まってからにする。二等級でさらに坑道の発見者だ、能力の高さは示している。それに加えこの件の提案者とすれば無駄な反発も出ぬだろう、ただし…」


 そう言ってお父様はケインお兄様を見てニヤリとする。


「そんな才女が支えるカルンを次期当主にと、貴族共が言ってくるかもしれんがな」


「とっ、父さん、さすがにそれは…」


「ありえぬ、とは言い切れんぞ?お前は確かに優秀だ、当主になるに相応しい才覚もある」


「だったら…」


「だがな、どんなに優秀でも、それを継ぐ者が居なければ意味がない。セルカは力もあり、賢く見目もいい、どれほど素晴らしい子が生まれる事か…。そう考える奴が居ても何らおかしくはない。セイルもだがカルンも十分優秀だしな。それに夫婦仲も良好、孫の顔を見れるのも時間の問題だろう。それに比べお前は浮いた話の一つもない上、見合いの話も蹴っていると聞いたぞ」


「ぐぬぬ、それは心から好きと思える方と一緒になりたいからで…」


「私とカシスは見合いだったが、今でも心から好きだと言えるぞ」


「ぐぬぅ」


「まぁ、お前に比べ顔も良く知られておらぬ様なカルンを担ごうと言うものなど、現時点ではたかが知れているとは思うがな。何が言いたいかと言えば、さっさと結婚して私たちを安心させろと言う事だ」


「は…はい…」


「セイル、もちろんお前もな」


「えっ!?あっ…はい…」


「じゃあ、暇になったセルカちゃんは、花嫁修業ね!まぁ、既に結婚はしてるけれど…色々教えてあげるわ。ケイン、セイルは草案を一緒に練ってなさい。カルンはライニの下でお勉強ね!」


 我関せずと言った感じでお茶を飲んでいたカルンに、お母様が突然話を振る。


「えっ!?今更なんの勉強を?」


「何ってもちろん、領の運営等に関してのよ」


「父さんの冗談なんじゃ…?」


「冗談だとしても十分あり得る話よ。やっておいて損は無いわ。それに将来的にはどうせ補佐にしろ何かしらはやることになるんだし?」


「ぐっ…わかりました」


 よほど勉強が嫌なのか、ライニの(・・・・)下と言うのが嫌なのか苦虫を噛み潰した様な顔をしている。


「あーお母様…?修業とはどんなものなのじゃ?」


「そうねー、編み物とか刺繍とか…あとは、殿方の為のとかね」


 パチンとウィンクをしてくるお母様に苦笑いしか出ない、最近心なしか背が伸び、体つきもがっしりとしてきたカルンは、日に日に強大になっている。

 カルンの為と言うのは実に心躍る文句だが、ワシの身が持たぬのではなかろうか…?


「ふふー大丈夫よ、そのための修業だもの。それじゃさっそくいきましょー」


 いつの間にか背後に忍び寄っていたお母様は、内心を見透かしたかのような事を呟き、ワシの手を取りお母様専用の部屋へと連行される。

 今日はまだ準備されてないと言う事で、編み物や刺繍は無しだったが、その分別の事を手取り足取り教えられた。

 寝る時間となるまでじっくり教えられ、部屋に戻るとカルンも勉強を嫌と言うほどやったのかぐったりとしていた。

 早速とばかりに教えられた事を実践してみると、カルンが元気になったのは良かったが、お互い更に疲れる結果となってしまうのだった。


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