939手間
アニスの持ってきた本はどれも面白かったが、いい加減本ばかりでは飽きてきた。
クリスは色々と仕事があるらしいしで、今日は夕飯の時間まで会えない。
なればと思い立ちアイオとライトが住む狼屋敷にくれば、右往左往する侍女や使用人の姿が目に入る。
「何事じゃ?」
「これはお嬢様ご機嫌麗しゅう」
「挨拶は良い、この騒ぎは何じゃ?」
騒ぎという程のものではないが、皆オロオロとしている。
しかし、彼らはこの宮殿を含む王宮で働くことを許された者たち。
誰憚らず自身をエリートだと名乗れる彼らが右往左往するとは、一体アイオたちに何があったというのか。
「ライト様が体調を崩されておいででして、ですのでお嬢様、原因が判明するまで何卒」
「気にするでない、ワシにあらゆる病気も毒も効きはせぬ」
原因不明の体調不良の相手に会うのを控えろと言いたいのだろうが、生憎ワシには効きはしない。
「とはいえおぬしのいうことは尤もじゃ、アニスはここへ控えておれ」
何とかワシを引き留めたい侍女の顔がワシの言葉の前半でパッと輝き、後半で一気に陰る。
引き留める為にワシの裾を引っ張ることも出来ない侍女を尻目に狼屋敷の扉を開けば、室内に置かれた座り心地の良いクッションの上で苦しそうにうずくまるライトと、その周囲を心配そうにウロウロするアイオの姿が目に入る。
さらにその周りには近付くに近づけない様子の使用人たち、その理由もすぐ判明するじりりと半歩ほど使用人の一人がアイオたちに近づけば、ライトならばともかく人に十分慣れたであろうアイオがライトを守る様に進み出て使用人たちを威嚇するのだ。
「おぬしらは下がっておれ、おぬしらが居ってはアイオも安心できんじゃろう」
「お嬢様! すぐにお外へ、何が原因で倒れたか分かりませんので」
「大丈夫じゃから出ておれ、おぬしらの様子では調べようにも近づけぬであろうに」
ワシに命令されれば引き下がるほかない使用人たちが、頭を下げ狼屋敷を辞していったのを見送ると、アイオたちに向き直りワシは何の遠慮も無く近付く。
流石にアイオもワシを威嚇することなく、場を譲る様に下がってうずくまるライトの姿を晒す。
「ふむ、これは体内のマナが低下しておるのかの? ふぅむ、体調不良が原因というよりもマナが低下しておるから体調不良になったようじゃな」
ざっとマナの流れを見て、まるでボウルに穴を開けて水を抜いたようにライトのマナが低下しているのを見て呟く。
ワシは医者では無いがマナが絡むのであれば多少は病の原因を探れよう、そう思いライトの傍にしゃがみ込んで詳しくマナの流れを見ようとライトを凝視して、その原因であろうモノをすぐに見つけ耳がピコンと跳ねるように動くのだった……




