929手間
アイオと違いつい先日まで野生の狼だったライトの毛並みは、悪くは無いがゴワゴワしていた。
野趣あふれる手触りであるが、丸洗いされたことにより一転。
アイオより柔らかい毛並みという事がわかり、今はふわふわとなったライトの胴に、しなだれかかる様に鼻息荒くワシは頬をすりつける。
「んふふ、おぬしはワシやアイオ、スズリとも、これまた違った毛並みでよいのぉ」
ライトもライトでワシに毛並みを褒められてご満悦そうだ。
アイオだけが仲間外れにされてやや不満そうに伏せてこちらを窺っているが、アイオは後でいくらでも毛並みを堪能できるだろうと放置する。
「さて、折角じゃから裏の森にでも、イノシシやらを狩りに行くかえ?」
狩りと聞いてアイオが立ち上がり、ライトも耳をピンと立て、二匹とも乗り気だとワシがほくそ笑んだところで待ったがかかる。
「お待ちくださいお嬢様、あの森は聖堂の許可を得た者しか入ることができませぬ」
「ぬぅ? 主教かなんじゃったかかの、それと同じ立場であるワシは大丈夫なのではないかえ?」
「確かにお嬢様お一人であれば問題ないのですが、お嬢様お一人であることが問題なのです」
「何でじゃ?」
「お嬢様がお強いことは皆が知るところですが、お嬢様をお一人にしてしまうのは近衛の、ひいては王家の面子に関わるのです」
「ぬぅ」
確かに、危急の場合でもない限り、貴人を一人フラフラさせていては、近衛は何をしてるのだと言われても仕方ない。
ならば致し方ないと諦めよと考えた時、そこでふと聖堂のお偉いさんと同じ立場のワシならば許可を与えれるのではとポンと手を叩く。
「そうじゃ、ワシならば供回りに森に入る許可を出せるじゃろう、それならば行ってもよかろう?」
「申し訳ございませんお嬢様、森に入るのに許可が要るというのは知っているのですが、その許可を出せるのがどの様なお立場の方なのか分からないのです。ですので、お嬢様が許可を出せるのか私には何とも、それで万が一お嬢様のお立場が悪くなっても……」
「ふぅむ……」
何とも面倒なことだとワシは腕を組む。
「アイオ様と、えっと……ライト様のお食事でしたら、お嬢様がわざわざ狩りに行かずとも私どもが用意させていただきますので、森には入れませぬが外で遊んでは如何でしょうか?」
「そう、じゃな。そうさせてもらおうかのぉ」
確かにアニスの言う通り、ワシとしては狩りなぞ軽い運動のつもりだったので、わざわざ七面倒な許可のいる森へ行く必要もない。
ならば当初の予定通りにアイオと遊んで癒されるかと、予定外ではあるが増えたライトも引き連れて、一日中思う存分遊び回るのだった……




