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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
949/3463

921手間

 フレデリックから包帯が取れる頃、ようやく揺蕩うように神都を映す湖が見えてきた。

 

「傷が癒えるまで随分かかったのぉ」


「いやセルカ、フレデリックはかなり早い方だよ」


「ふむ、そうなのかえ?」


「職務上あまり深手は負いませんが、訓練などで受ける傷が癒えるのはそれなりに早いかと」


「ふぅむ」


 ワシを基準にしてはダメなのは理解しているので、当然かなり低く見積もってなのだがそれでもまだ基準が高いらしい。

 そも、ワシの場合は傷の治り以前に傷を負わないのだが、今のワシならば血を拭えば既に傷が癒えているくらいの速度だろう。


「まぁ、よい。それは良いのじゃ、それよりも、の? 凱旋パレードというのは分かる、しかしじゃ、ワシもこんな派手派手な鎧を着ねばならぬのかえ?」


 ワシとクリスが着ているのは、凱旋用に誂えられた文字通りのパレードアーマー。

 クリスが着ているものなぞ金銀財宝煌びやかな、複雑怪奇な意匠の施された最早美術品と言った方がいい、当然防具としての性能や動きやすさなど度外視したもの。

 ワシの着るのも露出こそ殆どないものの体の、特に胸元を強調するようなデザインの「くっ殺せ」というセリフが似合いそうな宝石などが散りばめられた何とも華美な一品。

 しかもだ、これでもかと宝飾を散りばめているからか見た目以上に重量がある、転んだら一人で起きられないと揶揄される重騎兵も真っ青な重量なのは、着るのがワシだからだろうか。

 

「えぇ、王太子殿下の婚約者として、隣にいて恥ずかしくない格好をとの陛下からのご下命ですので」


「ぬぅ、そう言われれば、何も言えぬのぉ……」


 これも役目ならば致し方ないと、ちらりクリスの方を見やればやはりクリスの鎧も重いのか、ギクシャクと何ともぎこちない動きで歩いている。

 

「それにしてもあれほど重いものを着せて大丈夫なのかえ?」


「はい、馬に乗って移動して頂きますし、その馬も生え抜きのお二方が乗っても恥ずかしくないものを用意しております」


「そうかえ」

 

 答えるフレデリックが着こむのも、いつもの実用性重視の鎧よりも若干派手なもの。

 かなりの重量があり連れてこられた馬自体にも、たっぷりと装飾が施された馬鎧を着ており馬が可哀そうな気もするが本人、いや本馬たちは何故かやる気満々のようなので何も言うまい。    

 わざわざ神都から合流してきた近衛たちも馬に負けず劣らず気合いが入っている、今も最終チェックとばかりにお互いの鎧の留め金を引っ張ったり、緩みが無いかなどを入念に調べている。

 クリスも動きこそギクシャクしてるがそれは鎧の重量のせいであって、その顔はやる気に満ちている。

 

「遠く離れた地とはいえ民は皆戦と聞いて不安なんだよ、だから勝ってきたと知らしめるのも重要な仕事だよ」


「その意義は分かるのじゃが、これほど派手なものな必要もあるまい?」


「それは、王家の威信って奴だよ」


 脱いだら体が痛くなっていそうだと、肩を竦めるクリスがフレデリックに代わり答える。

 どちらの重要性も理解できるので、諦める他ないかと一番大変なのはワシらを乗せる馬だろうしとそろそろと近くに連れてこられた馬の首を、がんばれよという気持ちを込めて撫でるのだった…… 

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