918手間
口は災いの門などというが、アレは馬鹿といったら怒られた、みたいに因果応報というか、巡り廻って自分に不利益がというようなイメージがある。
なのでここはやはりフラグ云々という方がいいのだろうか、しかしなんでフラグ、旗なんて言い回しだったのか。
厄介ごとが旗を目印にやって来るからだろうか?
「がんばれー、としか言えぬのぉ」
「セルカはよくこの状態でそこまで落ち着いていられるね?」
「クリスも十分落ち着いておる様に見えるがのぉ」
「セルカほどじゃないさ」
ワシらは今あと少しで結界、そこで前にも後ろにも行けぬほどの吹雪に遭い、更にはそこへ腹を好かせたオオカミの群れと遭遇した。
踏んだり蹴ったりとはこういうことを言うのだろう、バタバタと激しく打ち付ける雪のせいで目でも気配でも外の様子が探れない。
マナに注視しようにも、結界の近くだからかそれも天候同様大荒れで、外の様子を探る役には立たない。
「それにしても、この様な天候に遭うとは、これほどの吹雪一巡りの内でもそう起こらないというのに」
「遭うてしもうたもんは仕方ないじゃろうて」
結界によって歪められているとはいえ吹雪は自然現象、飢えたオオカミの群れもまぁその範疇であるとも言えるだろう。
だからワシのせいでは無いはずだ、フラグだのなんだのと考えたが自然現象なのだから致し方ない。
「しかし、このまま立ち往生していては、冗談抜きで雪に埋もれてしまいそうだな」
「流石にそれは無いじゃろう、御者も外におるのじゃし危なければ無理にでも動かすはずじゃ」
「それもそうなんだけどね、準騎士の訓練でこれほど酷い吹雪の中では無かったけれども、雪中行軍もやらされてね。その時に雪崩などで雪に埋もれた時の対処なんかを五月蠅く言われるのを思い出してしまってね」
「ほほう、どんなことを教えられるのじゃ?」
「そうだね、まずは雪に埋もれるな、と。雪崩に遭ったら手足をばたつかせて雪の上に何が何でも残れとかかな」
「ふむ、なるほどのぉ」
雪に埋もれたらまず助からないと聞くし、なるほど実に理にかなったことを教えているのだなとワシは深く頷く。
「セルカも気をつけてね」
「まぁ、そうじゃな、雪に埋もれたらのんびりと融けるのを待つとするかのぉ」
「あぁ、いや……うん、セルカなら雪に埋もれても大丈夫そうだね」
クリスの言葉に雪の中でゆっくりと眠りながら春を……っとそれは無いから雪解けを待つ自分を想像する。
まるで蕗の薹のようで面白そうだとワシは頬を緩めるが、次に食べた時の独特の苦みを思い出し、くしゃりと顔を歪めるのだった……




