899手間
ガンガンと剣戟の音というよりも、最早鍛冶場のような音を響かせながら、ミドルへと何度も剣を叩きこむ。
ワシが随分とゆっくりと叩き付け、かなり手加減していることもあるが、ミドルも的確に斧を盾として使いワシの剣を防いでいる。
一しきり切り付けて、ミドルの反応が徐々に悪くなってきたところでワシは自重を元に戻し、斧の柄を蹴りつけて後方へと跳び退る。
「なんっつぅ馬鹿力だ」
「ふふふん、防戦一方のようじゃが、降参するかえ?」
「冗談! こんな面白れぇのやめる訳ないだろ」
ミドルは吠え、肉食獣のような獰猛で楽しそうな顔になる。
「うむうむ、若人はそうでなくてはのぉ」
「悪いが本気出していくぜぇええ!!」
「んむんむ、遠慮せず来るがよい」
ミドルは片足を軽く上げダンッと叩き付けるように地面を踏みしめると、斧を掲げ天を衝く獣の咆哮を上げるとミドルの体が膨らんだように見える。
その途端、先ほどまで驚愕で静まりきっていた訓練場が一転、一気に沸き立つような野太い歓声に包まれる。
「ほほう、おぬしなかなかやるのぉ」
「怪我しても恨むんじゃねぇぞ!」
言うや否や、ミドルが先ほどを上回る速度で突撃してくる。
今あやつがやったのは、ワシが普段無意識に行っているマナによる身体能力強化と、先ほどワシがやった自重を増やす変化を合わせたもの。
無論、ワシがしていることに比べれば随分と劣るが、ただの獣人が行うならば、まさにそれは天稟であろう。
ワシが感心している内にミドルはワシへと肉薄し、斧を袈裟懸けに振り下ろす。
斧が切る風を感じる程度に後ろに下がり、必殺の一撃を避ければ斧は地面を抉る。
しかし斧はそこで止まらず、ミドルはコマのように体を回転させ、襲い来る角度を変えながら二度、三度と一撃を叩きこもうと斧を振り回す。
ミドルのそれは何度も背を向けるという無防備極まりないお粗末なものであるが、グォングォンと決して斧が風切る音ではないもの響かせながら迫る斧は、並みの膂力と胆力では止めることはおろか、近付く事さえ困難だろう。
だがしかし、いくら天稟の力を持とうとも、天賦自然たるワシには及ばない。
「うむうむ、そのまま精進するがよい」
ワシは両手剣を逆手に持ち替えて、斜めから襲い来る斧の刃を、剣の腹を滑らせるように激しい火花を散らせながら受け流す。
斧の軌道を逸らされ、僅かに体勢を崩したミドルの前で、ワシは右手に持つ剣をそのままに左手を引く。
「全身の強化に全力でマナを使うのじゃ、そして、耐えて見せよ」
そう言ってワシはワシの斜め上にある、ミドルの鳩尾目掛け左の拳を叩きこむ。
ドパンと鋼鉄の塊を殴ったような音と感触を残し、ミドルが地面と水平に吹き飛んで行く。
「ほう、今の一瞬で腹に集めるとは、やはりおぬしはなかなかやるようじゃ。マナで体を強くする術についてならば、この国で二番目じゃな」
「ごっはっ、じゃあ、一番は誰なんだよ」
斧の柄を杖代わりに、よろよろと立ち上がろうとして膝を突くミドルがえずくように呟く。
「無論……ワシじゃっ!!」
ドヤッとワシが胸を張りミドルの呟きに答えれば、ハッと肩を震わせてミドルは笑うと、そのままバタンと前のめりに倒れるのだった……




