894手間
ワシの見学の要求はすぐに通り、昼食を終えた後に見る事が出来ることになった。
「それにしても、獣人が兵隊に入っておるのは珍しいのぉ」
「騎士はともかく、兵は領主の裁量が大きいからね、獣人たちが所属しているところはそこまで規約が厳しく無いんじゃないかな?」
「ほほう、なるほどのぉ」
細かい規約などを嫌がる獣人が兵に居ることを不思議に思い、昼食の時にクリスに聞けば多分だけれどと前置きした後でそんな答えが返ってきた。
騎士は一部を除き国に所属するから規約が厳しく、兵隊は各領主の私兵扱いだから規約も領主の裁量次第と、そういう訳らしい。
まぁ国土が広く、交通も発達してない上に雪で頻繁に道が閉ざされるので、騎士たちも統一された規約と言うだけで国の意思の下にという訳でも無いとか。
そういう騎士は中央、神都周辺の者くらいで、忠誠こそ以前は神王、今は国王に捧げているものの、指揮は領主のものを仰いでいるらしい。
「騎士も色々大変なんじゃのぉ」
「その分、給金も良いし平民から騎士に取り立てられた場合は、騎士爵っていう騎士の間だけ適用される貴族扱いだからね」
「ふむふむ」
騎士は貴族の警護などをすることもあるのだが、気位の高い者だと自分の警護の中に平民が居ることを許せないばかりか、騎士の中に平民が居るのを許せない者が居るらしく、そういう者に対する処置として昔に決まったらしい。
「当然じゃが色々と知らんことは多いのぉ」
「平民から騎士になった者が身近に居たり、取り立てる側じゃ無いと知らないだろうしね」
「ふむ、確かに、クリスは将来取り立てる側になる者じゃしの」
細かい制度は知っていて損は無いが、必ずしも知っている必要が無いから、知らない人が多くとも仕方がない。
流石に王太子であるクリスや近衛騎士団長であるフレデリックは熟知してないとダメだろうが。
「そういえば、ここの兵に居る獣人とやらはどんな奴なのじゃ?」
「何でも元樵で、両手で扱う必要のある大きな斧を振るう、珍しい戦い方をするらしいよ。元居た村で樵の仕事が減って来たから街に出てきて、丁度魔物と戦っている兵たちと居合わせて、そこに助太刀して兵に勧誘されたとか」
「ふぅむ、何ぞどっかで聞いた話じゃのぉ」
丁度出くわした魔物やら盗賊やらを倒したその縁でとは、何とも良く聞くお話でありワシも実際それをやっている。
大抵の獣人であれば勧誘されても面倒くさいからと突っぱねそうなところだが、その話に乗る辺りやはり変わり者の獣人なのだろう。
これはますます会うのが楽しみだと、ニンマリと口の端が持ち上がるのだった……




