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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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887手間

 背中を撫でる感覚にふと目を覚ませば、ワシはいつの間にやらソファーの上からクリスの膝の上へと移動していた。


『んやっ、クリスやどうしたのかえ?』


「あぁ、すごくいい毛並みだと思ってね、埋もれたらすごく暖かそうだ」


『んむ、当然じゃろうな! ワシの毛の中に居れば吹雪の中じゃろうと安心じゃ』


「そういえば、セルカが助けた女性をそうやって連れてきたんだっけ、それは羨ましい」


『クリスが望むのならば、元の大きさになって運ぶのも吝かでは無いのじゃ』


 それはそれで魅力的な提案だ、見上げるほど巨大で優美な九尾の狐に乗った王子様。

 まぁ、変化した当初の大きさだと、完全に毛の中に埋もれて見えなくなるだろうが……。


「幌付きの馬車よりも大きいのだったかな?」


『いや、あれも抑えた姿じゃ。変化した当初の大きさは、前足だけで木々よりも高いのじゃ』


「それは……全く想像がつかないな」


 そう言えば変化した大きさの下りは喋って無かったなと、ワシの毛並みがよほど気に入ったのか、背中を撫で続けるクリスを見上げながら話す。

 クリスはその大きさになったワシを想像でもしてるのか、見上げるように視線を上げるがしばしして、自分で言うように想像できなかったのか首を横に振る。

 それもそうだろう、王国に居た竜や皇国の巨人を見ればまだ想像が出来たかもしれないが、大きな生き物といえば馬しか見たことない者からすれば埒外なのも致し方ない。

 その馬も、王国や皇国の主な種からすれば大型なのだが、それでも馬車の大きさを超える訳では無いのだし。


「魅力的、ではあるけども、大騒ぎになりそうだからやめておこう」


『そうじゃな』


「それにしても、この手触りと暖かさは放しがたいな、この姿なら捕まえておくのも容易そうだ」


『んふふふ、そうじゃろう、何せワシの自慢の毛並みじゃからな。しかしクリスや、ワシはこの姿でも力などは変わらぬからの、牙や爪は鋭く毛は剣をも通さぬほどに強靭じゃ!』


「それは何とも、欲の皮が張った者に狙われそうな毛並みだね」


『毛皮は当然無理じゃが、何とかしてワシの毛を集めたとしても滑らかで丈夫な普通の毛じゃからの、防刃など無理じゃ』


「その時点で普通じゃ無い気もするけれど」


『何にせよ、ワシの丈夫さはワシのマナを受けておるからじゃしの、引っこ抜いた花が枯れるのと同じじゃな。それにしても、やはりというか毛皮をどうこうするのはあるのじゃなぁ』


「そうだねぇ、裕福な商家や下位貴族は毛皮で飾ることはあるかな、セルカが会った人でそう言う人が居なかったのは皆セルカのことを気にしてだと思うよ、それに毛皮の服なんかは僕たちからすれば猟師なんかの平民が着る防寒着ってイメージが強いから、上位の者になるほど使わなくなるかな」


『ほうほう』


 ならばワシの毛皮を狙う輩は居ないということか、この姿のままであれば猟師あたりが狙いそうだが、ワシには矢も罠も効かぬ。

 なればワシの毛並みを堪能できるのはクリスだけ、ワシの背を撫で頬を緩めるクリスにその有難さを噛みしめよとばかりに、ふふんと鼻を鳴らすのだった……

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