885手間
話に付いていけないシャーロットが狼狽えている内に、彼女をワシから降りる時にエスコートした騎士が、そのまま舞踏会の会場に連れて行くかの如くの流麗さで彼女を連れて行った。
これでシャーロットに関しては大丈夫だろう、ワシの見てないところでお金を渡して放逐ということも無いはずだ。
そんな事は彼らの騎士道に反するはずだし、何よりワシの勘気に触れることは分かり切っているだろう。
『しかし、おぬしらはいつか、女難で痛い目を見そうじゃのぉ』
「醜聞が無いよう気をつけておりますので、それにセルカ様が連れて来られた方、そのような事も無いでしょう」
『んむ、当然じゃな』
呆れたようにワシが言えば、爽やかな笑顔でフレデリックは返してくる。
「それはともかくセルカ様、元の姿にお戻りになられないので?」
『ふぅむ、ここでは無理じゃな』
「そう、ですか。では、どの程度まで小さくなれますか? そのままでは色々とご不便でしょう」
『そうじゃな、普通の狐くらいはいけるかの』
「では、それでお願いできますか?」
『うむ』
ワシは一つ頷くと気合いをいれて、ぐぐぐぐっとその身を縮めてゆく。
そこらにいる狐と同じくらいの大きさになると小さくなるのを止め、どうじゃとばかりに鼻を鳴らす。
フレデリックは少し驚いたように目を見張るがすぐに表情を戻す、もう少し驚いてくれても良いのに何とも張り合いの無い。
「それでは、クリストファー様の下にご案内しますので」
『んむんむ』
フレデリックは執事のような物腰でワシの前に立ち、コツコツと靴音を鳴らしながら先を行き、その後に続けばさらにワシの周囲を守るように騎士たちが付き従う。
白い狐を守る様に歩く騎士たちの姿は実に奇異なのだろう、道すがら会う者たちがギョッとしたり、狐につままれたような表情をするのが面白い。
そんな風に周囲を観察しながらとてとてと歩いていれば、門の所であった騎士によればクリスは退避させたなどと言っていたのだが、意外と近い所に退避していたようで、すぐにクリスの待つ部屋の前へとやって来た。
「クリストファー様、セルカ様をお連れしました」
「入れ」
コンコンとフレデリックがノックをして、用件を告げればすぐに中から返事が来る。
フレデリックが扉を開けてくれるので部屋の中へと入れば、ハトが豆鉄砲でも食らったかのような表情で立つクリスが出迎えてくれた。
「セルカ、だよね?」
『んむ、ワシじゃ』
「あぁ、その声、確かにセルカだ」
小さくなったからか、無理せずとも元の姿と同じ声が出せる。
そこでクリスはようやくほっとしたような表情を見せ、ソファーへと腰を下ろした。
「報告で聞いた見上げる程の大きさじゃ無いのは良いんだけど、何でその姿のままなのかい?」
『んむ、これには訳があっての』
ワシが対面のソファーへとぴょこんと飛び乗れば、早速とばかりにクリスが聞いてくる。
なのでワシは体を丸めてその場に座り、丁度良いからと分かれてからの事からクリスに語って聞かせるのだった……




